新生クンスト・ヴェルケ現代美術館(KW)企画展「再始動」
ベルリン中心部にある現代美術を取り扱う美術館、クンスト・ヴェルケ現代美術館(KW Institute for Contemporary Art:通称KW)。ベルリンの壁崩壊直後、街の中心部には多くの自由に使えるスペースが生まれ、アーティストが集まり、ギャラリーが林立していた。KWはこのベルリン現代アート黎明期に設立され、意欲的に展覧会を開催し続けて世界の舞台へと躍り出た。そして今なおベルリンのアート・シーンを牽引し続け、大きな影響力を持つ。
今回そのKWが大きく変ろうとしている。展示を統括するキュレーターが代わり、美術館の方向性が変わるためだ。以前と大きく異なるプログラムを打ち出すなか、新生KWとして初めて開催された企画「RELAUNCH」(再始動)。それはまさに美術館の今後の方向性を強く感じさせるものとなった。
Ellen Blumenstein, Chief Curator of KW Institute for Contemporary Art, Berlin, © Edisonga
まず企画内容を紹介する前にKWが持つ特徴についての簡単な説明から始めたいと思う。そもそもKWは1992年に立ち上げられた私立の組織であり、公立の美術館のように制限を受けることなく企画や展覧会を開催している。また作品コレクションを持たず企画展のみを行うため、時代の感覚を常に展覧会へ取り込んできた。まさに現代の社会や文化を映し出す現代アートに相応しい場所なのだ。
その他にも2年に一度開催される「ベルリン・ビエンナーレ」の運営母体となっており、ベルリンの現代アートにとって最重要な場所といっても過言ではないだろう。こうした大きな影響力を持つKWだが、その方向性は展覧会の企画を担うキュレーターに大きく左右される。そして2013年エレン・ブルーメンシュタインがそのポジションにつき、KWに変化をもたらすために動き始めた。
RELAUNCH, Nedko Solakov, MARKIERUNG, 2013, Text and drawings, Felt-tip pen on various surfaces, Courtesy of Nedko Solakov, KW Institute for Contemporary Art, Photo: Thomas Eugster
彼女が企画した「RELAUNCH」は、幾つかの展示やプログラムが重なり混じり合う複雑な構造を持つ。しかし一言で表すならば、企画タイトルが意味する通り「再始動」を印象付ける展示やイベントのまとまりとなっている。「RELAUNCH」初日に訪れた人々が見たのは何も置かれていない空となったKWの建物。展示スペースは改装されており、空間的な「新しさ」にまず気付かされる。白さが際立つ壁に近付けば、広大な空間とは対照的な小さな文字が見えてくる。
壁の所々に書かれたメモはブルガリア人アーティスト、ネドコ・ソラコフによるもの。書かれた内容は現代アートを皮肉るものからKWの新しいプログラムを示唆するものまで多岐にわたる。アーティストはキュレーターが持つKWのビジョンやそれへのリアクションを目に見える形にしたという。新しいKWを印象付ける展示で、空となったKWを強調する作品は、人々を驚かせると同時に美術館が全く新しいものになることを納得させていた。
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