森山大道 写真展「記録/記憶」
HAPPENINGText: Yukiko Tokugi
北海道での写真展は2003年に釧路芸術館で開催された「光の狩人 森山大道1965-2003」に続き2度目。札幌では初めてとなる「森山大道写真展《記録/記憶》」が札幌宮の森美術館で開催中だ。デザイナー長澤章生との出会いにより、34年ぶりに発行が再開された「記録」の写真、かつて訪れた北海道の写真、そして森山大道ダイジェストともいえる代表的な写真という3つのカテゴリーで構成されており、「アレ、ボケ、ブレ」だけではない世界が広がっている。
© Daido Moriyama
ところで私は、会場内で見ることのできるドキュメンタリー「≒森山大道」(2001年)の影響か、煙草の印象がやたらと強い。「あれから煙草やめようと思ったりしていないんですか?」などというどうでもいい質問もしつつ、6月29日に行われたギャラリートークのために来札の森山さんに話を伺った。また「記録」の発行人でもある長澤さんも同席し、話を聞かせてくれた。
© Daido Moriyama
展示は2007年1月発行の写真誌「記録第6号」の写真から始まる。写真誌とは違うノートリミングの写真なのだが、森山さんは写真ができ上がるとデザイナーに渡してしまうという。『自分だけではそれ以上にはならない。他の人が関わることで化学反応が起こると思うから。それに“記録”は、始まり、終わりというのを決めて撮っていません。そういうことは関係ないんです。写真は“原稿”として渡します』。
「記録」ではデザイナー2人が案をそれぞれ出して、森山さんがどちらかを選ぶというスタイル。『挑戦的なキャッチボールをするような感覚』と森山さんがいい、『そういう写真家は珍しいです。森山さんを驚かせよう、と思いながらデザインを考えている』と長澤さんがいう。そして森山さんが続ける。『イメージに向かって構成していく撮影もありますが、“記録”はラフに撮っています。シャッターを押せばいい。押して忘れてしまう。現像したネガを見て思い出すのですが、ラフだからこそ気分やそのときの思いが大切だと思っています。それに見る側も気分によって見ているでしょう』。
今年1月に復活した「記録」は年4回発行で次号第8号は8月発行を予定。なお、日本のみならずアメリカ、ヨーロッパでも販売されている。
さらに奥に進むと北海道の写真が並んでいる。森山さんの北海道の写真に対する思いのひとつは、開拓の時代を写真で記録し続けた田中研造へのリスペクト。『田中研造の写真はその時代を写した記録だけれど、記録だけにとどまらない良い写真が多い』。森山さんは「写真は記録」と言い切るのだが、その背景はここにもある。そして、もうひとつの北海道への思いは、憧れ。『赤平、夕張、幾春別といった石炭の時代の町の表情が好きで、子供のころに見ていた図鑑の記憶に重なる風景を目にしたときは余計うれしかった』。今回の展示には30年間眠っていたネガから初めてプリントされた写真もある。写真1枚だけでは場所の記憶があいまいでも、ネガ全体を見ることで蘇ってきたという。
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