蓮沼執太
PEOPLEText: Yu Miyakoshi
音楽家としてキャリアをスタートさせた蓮沼執太(はすぬま しゅうた)。2006年のファーストアルバムリリース以来、舞台や映画の音楽制作、コンサート、パフォーマンス、インスタレーションなどとシームレスに活動を広げてきた。蓮沼執太は今、どこに向かっているのだろうか。個展の準備に追われているという蓮沼氏のもとを訪ね聞いてみた。
Photo: Takehiro Goto
最初に、蓮沼さんと音楽との出会いからお聞かせいただけますか?
特に音楽的というわけでもない普通の家庭に育ったのですが、幼稚園の時にエレクトーンを習っていたので、小学校の合唱会のような時には必ずピアノを弾かされていました。いつも本番直前に猛練習していましたね(笑)。
自分で音楽を作るようになったのは、大学生の時に渋谷にあるレコード屋でアルバイトをしていて、MPC2000XLというサンプラーの中に音を入れて遊んでいた頃からです。あとは大学で環境学を専攻していて、記録として環境音をレコーディングすることがあったのですが、それがきっかけでフィールド・レコーディングをするようになったり、プログラムを書いて電子音を作ったりしていました。
大学4年生の時にアメリカのインディーズレーベルからセルフタイトルのアルバムを発表したのですが、本格的に音楽をはじめたのはその時からです。
Performance view from “OUR MAGIC HOUR” at the exhibition space for Peter Coffin, Yokohama Triennale 2011. Courtesy the artist Photo: Ken Kato Courtesy of Organizing Committee for Yokohama Triennale
なぜいきなりアルバムデビューだったのでしょうか?
いわゆる若者っぽい発想ですけど、卒業を前にして漠然と就職したくないなぁ、というのがあったのです。それで「作品」と呼べるような形ができれば他の表現でも良かったのですが、音楽が一番手取り早かったのです。それから自分の演奏にフィールド・レコーディングで集めた音であったり、プログラミングのパッチから出力した電子音や少し器楽音をのせて、アルバムを作りました。
初期の音楽を聴いていると、フィールド・レコーディング主体の音が音楽として聴こえてきます。音感がない者としては、どうしてそんなことができるのか不思議です。
フィールド・レコーディングに音感なんて必要ないと思いますよ。現象を自分自身で観察していくものに近いですから。サンプリング・ミュージックとかテープ・ミュージック(*1)とか、ミュージック・コンクレート(*2)も例外はあるものの、音感が必ず必要というものでは無いと思いますけどね。僕はたまたま音感があるのでラッキーだなと思いますが、それは足が速いのと一緒ですからね。身体的なことに近い気がします。特技というか、細い縫い針に糸を通す力があるみたいな、そういうレベルだと思います。
(*1)テープ・ミュージック
楽器音やその他の音を録音したテープを切ってつなげたり、走行速度を変えたり、逆方向に走行させて再生する技法のこと。ミュージック・コンクレートと、狭義の電子音楽とをまとめてテープ・ミュージック(音楽)と総称する。(出典:Wikipedia)
(*2)ミュージック・コンクレート
1940年代の後半にフランスでピエール・シェフェールによって作られた現代音楽のひとつのジャンルであり、音響・録音技術を使った電子音楽の一種。具体音楽とも訳される。(出典:Wikipedia)
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