澁谷俊彦

PEOPLEText: Satsuki Miyanishi

ご自身の言葉である「精神の森」についても教えていただけますか?

日本人が抱く自然への畏敬の念、その象徴としての森。自らが森を散策しながら瞑想し作家としてのアイデンティティの構築を目指し、その具現化を「精神の森」と称しました。

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「森の雫」2008年, ギャラリーESSE

2009年からギャラリーでの展覧会から、茶室や野外での展示を積極的に行っていますね。サイトスペシフィック・アートを行う理由は何ですか?

ホワイトキューブ空間での作品設置と真逆のベクトルに新たな可能性を感じ始めていた頃、新設のギャラリー「ESSE」での企画個展(2008、2009年)で、会場特性である大窓から注ぐ太陽光に魅了されました。インスタレーションは外光の影響(光と影)で刻々とその姿を変えました。雲に陰り、人影に陰り、そして日没とともに人工光線の空間へと変化するわけです。太陽光を積極的に作品に取り入れたいとの思いが強まりました。そして紅桜公園、茶室寿光庵との出会いです。偶然訪れたそこは「場の力とアートとの共存」を叶えてくれるものと直感し、交渉の末3日間という前例のない展覧会「茶室DEアート」の開催にこぎ着けました。

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「茶室DEアート」2011年, 紅桜公園・茶室寿光庵 写真:川村魚実

和の空間・畳敷きでは鑑賞方法の基本は座すことです。視線が下がることで作品は非日常な見え方となります。床柱や梁に使われている樹齢600年のオンコの幹、お香の香り、借景の木々の緑、抜ける風、野鳥のさえずり、蝉の声、毛氈の赤色、五感を刺激される空間に対して、自らのテイストに場との調和を図るコンテクストを盛り込むことで、場の力を引き出し作品と融合させることに専念しました。場から五感に作用し作品と共鳴するその空間はホワイトキューブでは得られない新鮮な体験(作者−鑑賞者)となりました。場との共鳴を求めることは必然的に野外へとシフトしていきます。

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「ハルカヤマシロシメジ繁殖計画」2011年, ハルカヤマ藝術要塞 2011 写真:川村魚実

「ハルカヤマ藝術要塞2011」では廃墟となったかつてのホテルとそこにもたれかかる様に寄り添う倒木のシュチエーションが、「自然と人間との共生・共存・再生」といった想い(制作意欲)を呼び起こしてくれました。3・11以降、芸術の無力感に苛まれておりましたが自然との共生をテーマに具現化した「ハルカヤマシロシメジ繁殖計画」という作品へと繋がりました。

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