落合陽一
PEOPLEText: Victor Moreno
2018年4月20日から6月28日まで東京の中心部に位置する表参道の「EYE OF GYRE」で開催された「山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」を6月に訪れた。この展覧会では、様々な分野にまたがるメディアアーティストであり教授としても活躍する落合陽一の代表作を含む作品が展示された。近年の落合の研究やアート作品は、人間と自然、技術の関係を探求する印象的な作品を生み出すデジタルネイチャーの概念に焦点を当ててきた。落合はわずか30歳で、東京大学の総合分析情報学コースで博士課程を修了、さらに研究と科学の分野で数々の賞を受賞し、日本で最も総合的な研究大学の一つとして知られる筑波大学を含む世界中の多くの有名な大学や機関と共同研究を続けている。2017年には、ピクシーダストテクノロジーズの「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」の基盤長に就任した。現在「計算機自然」というコンセプトを研究しており、VR、デジタル・ファブリケーション、自動運転、人間制御に重きを置いている。
落合は『今日の自然の概念は、旧石器時代に住んでいた人と同じではない』と説明する。彼がこのテーマを拡張し、指し示す「超自然」と呼ばれるコンセプトは、近い将来、人工的なものとそうでないものとを区別することはできないというもの。アメリカの作家、フィリップ・K・ディックは、大ヒット映画「ブレードランナー」の原作である「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などの小説で、この題材を大きく扱っている。落合によるとこの「超自然」のポイントは、人間が適応し、成功するかどうか。今後数十年にわたる決定的なテストとして、ターニングポイントとなっていくようだ。彼の研究のもう一つの重要な側面は、「借景」と呼ばれるもの。「EYE OF GYRE」の中心に展示された「モルフォシーナリー」は、二次元の表参道がまるで映像のように大型レンズに映し出された。私たちは、このような素晴らしい作品の理解を深めるためインタビューの機会を得た。
Photo: Masato Kato
ピクシーダストテクノロジーズの主な目的は何ですか?
ピクシーダストテクノロジーズは、学術と知的財産の新しい創案を社会にもたらすために努力しています。この名前は、デジタルネイチャーの魔法のような経験を生かし、日々の経験を向上させる計算技術を開発するという私たちの使命から派生したものです。芸術と技術を結びつけ、新しい芸術と関連技術のサイクルのための生態系のようなシステムを構築する手段です。
メディアアーティスト、科学者、教授や講師でもある落合さんが、関わっている素晴らしい全てのプロジェクトを動かしていく時間どのようにやりくりしているのか、その秘密を教えてください。
常に自分自身の深い興味と科学的な分野の仕事によって導かれています。例えば博士課程を修了したあとは、音響ホログラムを専攻し、波のフィールドと人間の相互作用の関係を探求し続けています。研究室と会社のスタッフのサポートにより、コンセプト構築、実装、スケッチ、問題解決などに集中することができています。他のプロジェクトはどれも中心となるプロジェクトから派生したもので、私たちの指示とともに他の人に任せることで実行可能になります。
EYE OF GYRE での「山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」展では、人工物と自然、純粋で有機的なものと現代的なもの、産業的な物とデジタルなどコントラストの探究、また、人々がそれらのパラメータ間でどのように反応するか、相互作用するかを実験しているように感じました。こういったことについて教えていただけますか?
私はこの現象を計算機自然の普遍的な世紀の始まりを告げる「超自然」と呼んでいます。将来、私たちは人工的であるかどうかを区別することはできません。これは、言い換えれば、全ての “転換点” になるでしょう。人間は、数十年後にこれらの状況に適応する方法を見つける必要があります。
Digital Nature, Live and Dead, Dynamic and Static © Yoichi Ochiai, Courtesy of HiRAO INC.
「レビトロープ」と「シルバーフローツ」(展示されていたホバリング構造の作品)の磁場がどのように機能するかを簡単に説明してもらえますか?
2つの重要なステップがあります。まず、コンピュータグラフィックスと3D印刷を使用して3Dモデルの重力ポイントを最適化します。第二に、モデルの中に磁石を埋め込み、地下に能動電磁コイルでモデルを安定化させています。
Levitrope © Yoichi Ochiai, Courtesy of HiRAO INC.
「借景」という概念の重要性と風景の3Dと2Dへの切り替え、そして最終的な現実の変容についてご自身の言葉で説明していただけますか。
借景は、背景の風景を庭の構成に組み込むという古代の日本の手法の一つです。私はこのアイディアを現代アートのホワイトキューブに応用しました。今日、私たちの生活と芸術は、都市景観、環境、地球、人間関係などの変化の中で共存しています。アートインスタレーションは、この環境に存在し、これらの要素と関連し、反映しなければならないと思っています。借用された風景は、庭をこれらの外部環境に結びつけ、現実の変形であると共に、作品のバックグラウンドに対して現実感を高めるという2つの方法でアートワークを強化します。
同様の考え方で、あなたにとってのアナログデバイスとデジタルデバイスの違いを教えてください。
時間と空間の解像度は重要です。デジタル機器は、空間解像度の面で限界がありますが、 アナログデバイスは、より高い解像度に対応できます。
Text: Victor Moreno
Translation: Satsuki Miyanishi
Photos: © Yoichi Ochiai, Courtesy of HiRAO INC.