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三上晴子

PEOPLEText: Mariko Takei

今回開催する個展「Desire of Codes|欲望のコード」では、新作インスタレーションを発表されるそうですが、3部構成で展開する今回の個展についてコンセプトやそれぞれの展示内容をご紹介頂けますか?

「Desire of Codes|欲望のコード」は、3つの作品構成で展開されているインタラクティブ・インスタレーションです。この作品は、私が考える今現在の私たちの社会を映し出し、また、情報生態系社会に増殖する欲望を表現しています。

手前の巨大な壁面には、昆虫の触毛を思わせる小型カメラを搭載したストラクチャー、そして、中央の天井からはビデオカメラとレーザー・プロジェクターが搭載された6基のロボテックス・サーチアームが吊られています。各装置は、昆虫がうごめくように、観客の位置や動きをサーチし、それに向かって動き出し、観客を監視し、その姿を蓄積しています。さらに、会場の奥には、昆虫の複眼のような巨大円形スクリーンが位置し、壁からのカメラのリアルタイム映像データや、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像とともに、独自のデータベースを構築し、過去と現在の会場の画像と世界各地の映像は、時間や空間を断片的に組み変え、交錯しながら、この複眼スクリーンに投影される仕組みになっています。

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蠢く壁面
会場入口付近の横14.4m×高さ4.5mの白い壁面には、縦6列、横15列、に設置された90ユニットの動くストラクチャーが組み込まれた壁面が広がっている。これらのユニットは観客の動きに連動し、追随するように蠢き、個々のユニットから出される「カシャ」という生の駆動音により、全体として生物体がざわめくような空間を作り出す。

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多視点を持った触覚的サーチアーム
中央の天井9m×6mのエリアには、蜘蛛の巣のように58個のセンサーが張り巡らされており、触覚的なロボットアームの形状をした作品6基が吊られている。そのアームは静かに疾走して追うように観客の動きに追随する。アームの先端には超小型高精細カメラとフォーカス・フリーの超小型レーザー・プロジェクターが装着され、観客をカメラで捉えると同時に、あらゆる角度の観客の姿をリアルタイムで床面に映し出す。考える隙間を否定するかのように速度を増しながら動くアームによって、「今現在」は「ヴォイド/空虚」の繰り返しであるということが認識されていく。
観客が1カ所に立ち止まっているとビデオカメラのレンズが光に焦点を合わせるように観客へズーム。別の観客がセンサーの網に近づくと、再びこれら触覚アームは別の観客を捉え、静かに疾走しながら観客自身を反射させていく。また、会場入口付近へ入る時に撮影された観客の画像も、この床面を這うように映し出される映像に介入する。

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巡視する複眼スクリーン
「蠢く壁面」から送られてくる観客の映像、観客の動きやネット上にある世界各地の監視カメラ画像など、センサー/カメラ/プログラムなどの様々な独立した要素(データ)は、独自のデータベースとして構築される。複眼スクリーンの各個眼は、互いに連携しながら、時間軸、空間軸、ネット軸を横断し、このデータベースを通してリアルタイムに巡視、全ての要素がこの個眼の思考によって分断され、複眼スクリーン上で再構築されるのである。
直径4.7mの複眼スクリーン上には、観客の皮膚、眼、髪、鞄などのリアルタイムの会場の映像と、5秒前あるいは5時間前、5日前、5週間前などの過去の映像も入り交る。また、飛行場、公園、廊下、湖、雑踏、コンピュータルームなどの世界中の監視カメラの映像も同時に映し出される、その61個の個眼からなる映像の経緯は、まるで分断された夢や、脳の記憶を見ているかのような様相を生み出す。また、データベースには顔認識のシステムも組み込まれており、人の顔を認識すると、自動的に人面データベースへと取り込む仕組みになっている。

※データベース
本作で開発された、ネット上に公開されていると世界の監視カメラの画像、顔認識された画像、会場内のカメラによる過去の画像、リアルタイムの画像などを巡視している単眼エージェントのプログラム。これをグラフィック化した画像を、会場の入り口付近に設置されたモニタ—で表示している。これは「欲望のコード」のプログラムの管理人ともいえ、過去と現在を分断、また横断している様子を見ることができる。

※3つの作品を統合している音と光 
インスタレーション空間内に流れた人々の話し声や物音、作品から発生される機械音は超指向性マイクによって収集され、音声から音圧や周波数成分といった時系列情報が抽出され、解析される。「蠢く壁面」からは15列それぞれのセンサーの反応と可動ユニットの角度データ、「サーチアーム」からはシリンダーの長さとステップモータの角度のデータ、「複眼」からは各単眼の表示内容などの情報をリアルタイムにデータベースとして記録する。同時に、その現在の状況をトリガーとして、現時点までに蓄積されたデータベースから過去の音声や作品状況を呼び戻し、それを素材とした新たな音響空間を作り出す仕組みになっている。また、会場の環境光も作品とのインタラクションやプログラムと連動して、まるでリセットしたかのように白く光るなど、変化する。

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鈴木将弘
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