ブランクーシ 本質を象る

HAPPENINGText: Alma Reyes

20世紀を代表する彫刻家としてヘンリー・ムーア、アレクサンダー・カルダー、オーギュスト・ロダン、アルベルト・ジャコメッティらに比べ、コンスタンティン・ブランクーシの名は見過ごされているかもしれない。ブランクーシは、素材の性質を重視し、純粋な形を徹底的に追求した、ロダン以後の近代彫刻の領野を切り拓いた先駆者である。石の作品に基づき石膏で製作された《接吻》(1907-1910年)は、愛情の象徴たる接吻を主題に、一個の石塊を活かして、男女の固い結びつきを彫り出した様子が写し取られている。素材の質感を表面にニュアンス豊かに残しながらも、互いを抱きしめる腕をはじめとして柔らかな曲線に富んだ造形は、直彫りならではの素朴さと親密さをたたえている。


コンスタンティン・ブランクーシ《接吻》1907-10年、石橋財団アーティゾン美術館

ブランクーシの展覧会「ブランクーシ 本質を象る」が、東京のアーティゾン美術館で今年7月7日まで開催されている。日本の美術館でのブランクーシの個展としては初の開催となる本展は、ブランクーシ・エステートと国内外の美術館等より借用の彫刻作品約20点に、絵画作品、写真作品を加えた、計約90点で構成されている。彫刻作品2点、《接吻》(1907-10年)、《ポガニー嬢Ⅱ》(1925年(2006年鋳造))はアーティゾン美術館の石橋財団コレクションからの出品。


コンスタンティン・ブランクーシ《ポガニー嬢Ⅱ》1925年(2006年鋳造)、石橋財団アーティゾン美術館

彫刻作品の展示では、石膏やブロンズから、木や鉄まで、多様な素材に基づく作品がうかがえるとともに、素材の特性に即した表面の仕上げを見ることができる。ブランクーシは、ルーマニアのブカレスト国立美術学校で彫刻を学んだ後、1904年にパリに移り住んだ。ブランクーシの初期の作品《プライド》(1905年)には、アカデミックな写実性やロダンの影響が顕著にうかがえる。一方、《苦しみ》(1907年)では、首を捻るポーズにモデルの悶える様子はうかがえるものの、その表情は不明瞭である。この表現の差異は、ブランクーシの関心が、外面的な写実主義から質感の探求へと移行し始めたことを示している。


コンスタンティン・ブランクーシ《眠れるミューズ》1910-11年頃、大阪中之島美術館(5月12日まで展示)

《眠る幼児》(1907年;1960/62年鋳造)を皮切りに、「眠り」の状態を通じて、ブランクーシは重力から解放された、水平に置かれた頭部像を創出する。本作品はブランクーシが卵型のフォルムに強い関心を抱くきっかけとなり、生命や誕生のシンボルとして、抽象性を高めていく。《眠れるミューズ》(1910-11年頃)のフォルムは同時期に発見されたアフリカの仮面を思わせる大胆なデフォルメが試みられており、20世紀初頭の西洋美術に大きな影響を与えた。1910年代のブランクーシの創作は、頭部をモティーフとする、観念とフォルムとの関係の追求に牽引されていく。

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