アブドゥル・ヴァス
PEOPLEText: Lee Doe Jamks
アブドゥル・ヴァスの作品には、ある個人の声に対する探究というものがある。独自の世界を創造する、あるアーティストの衝動を理解し、掘り下げ、鑑賞したければ、その声がそのアーティストにはどのように聞こえているかを知る必要がある。
Abdul Vas, Brian Johnson, Nagoya Kokaido Hall, 2015
. Oil on Belgian linen, 100 x 81 cm
イメージを通じて提起されるヴァスの詩的なディスクール(言説)は、AC/DCそしてロックンロール・ミュージックとの絶え間ない対話から生まれる。ヴァスの提案は、あるアーティスティックな実践に対する省察に満ちており、その実践は、断つことのできない紐帯を変わることなく結ぶ営み、そしてアーティスティックな行為による一体化への崇拝と謙虚な服従につながっている。絵画的な行為をレコーディングスタジオに入って1枚のアルバムを作成するために必要な力と同一視することに帰結する。
Abdul Vas, Sir Cucarachon NBF 5680-KKDK-Navistar, 2005.
Oil on linen, 210 x 378 cm
ヴァスは、アーティストとしてのキャリアにおいて、美的な諸探求をミックスする手法を示している。AC/DCに対する無条件の忠誠心を表明すると同時に、AC/DCが全米ツアーのステージ機材を運ぶために用いた巨大なアメリカ製トラックに自身のクリエイティブな世界全体を宿らせている。アブドゥル・ヴァスの作品はアメリカ文化の諸側面に結び付いている。その諸側面は互いに離れたものであるかもしれないが、アーティストの情熱によって、見る者を挑発する観念の視覚的な要素に還元し、一つの作品に仕立て上げることに成功している。
Abdul Vas, Back In Black World Tour 1980-81, 2015. Oil on linen, 160 x 195 cm
ヴァスは、我々が慣れ親しんだ現在的な規範に基づいた、多少なりとも敬意を払いつつ交わされる固定的なディスクールの構築から完全に脱却した成句を用いている。彼の作品は一般的ではなく、むしろ粗野であり、規範に執着せず、どの流派にも属さず、どの公式に対しても回答を提示せず、原則にも従わず、コントロールもされない。彼の作品は、美的要素の異種交配の一例であり、挑戦的かつ暴力的で、発狂したような顔料の使い方が特徴的だが、品の良さと独特の厳粛な緊張感をたたえており、昨今の生半可なアート作品群からは一線を画している。
Abdul Vas Studio, 2021
『過去のアカデミックなアートやすべての既成の流行から引き離してくれたAC/DCの音楽の力にインスパイアされて作品を作りたい。自分の作品が史上最も偉大なロックンロール・バンドであるAC/DCのリズムやエッセンスをつかまえてくれればよいと思っているだけだ』 — アブドゥル・ヴァス
ヴァスの夢想的な作品を見た者は、彼の徹底的に主観的で熱を帯びた現代の神話に没入する。それは反抗であり、喜びであり、力であり、彼が我々の時代において最も偉大であるとみなしているロックンロール・バンドに対する徹底的な忠誠である。
アブドゥル・ヴァスは、マドリッドとホーチミンを拠点とし、行き来している。彼の作品は、国際的なコレクションを形成しており、アメリカ、ラテンアメリカ、アジア、ヨーロッパで見ることができる。
Text: Lee Doe Jamks
Translation: Yuko Shimohara
Photos: © Abdul Vas