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榎 忠

PEOPLEText: Kazumi Oiwa

形も榎さん自身が変えているらしいですね。作業している時は、どのような事を考えていますか?

形は工場にある機械を使って作ってるんやけど、機械が古いから振動が凄いんよ。ガーっとな。ずっと機械の前にいて、その振動を感じながら妄想したりしているとどんどん幻覚の世界に引きずられていくんよ。そこで妄想の次に幻覚の世界に入って、次は覚醒されて最後は人間ではいられなくなる。そこで覚醒された妄想の人間の世界を、僕が美術に引きずり出して今に持ってきている。覚醒させていくと本当に怖い、機械が僕に命令しだしてくる。もっとここに穴を開けれだの、削れだの、磨いてくれだの。どんどん、手とか心臓とかが機械の振動とかで覚醒されてくる。でもそこから本当に、幻覚の世界に入ってしまうと危ないから、戻ってくるけどな。そこまで自分を追い詰めてやってんねん。夢中になって、ギリギリまで追い詰めてる。

榎忠
榎忠「BAR ROSE CHU」1979年 写真提供:榎忠、札幌宮の森美術館

ローズ・チュウの誕生は?なぜ、女の人だったのですか?

僕はお酒が好きやし、当時飲み屋って言うてもバーとかで。でも僕らなんてバーに行く金もないし、だから金がなくても飲めるような場所を作ったんよ。
そしてバーのママをイメージしてやってみた。おっぱいもつけて、触り放題、飲み放題、天国なような所をな!エノチューいうのは、戦ったり、絵を描いたり、作ったりしているけど自分を追い込んでいって、わけわからん世界から日常に戻ったときに自分が何をやりたいのか、何なんかわからなくなるんよ。だからもう1名、自分を客観的に見れる人物が必要で。僕は、言葉にするのが得意でもないし、あまり好きではないねん。でも、人に伝えるためには言葉って必要やん。その仲介いうたらおかしいかも知れんけど、それがローズやった。2006年にもやったんやけど、そん時はヤノベケンジ君なんかが来てくれたよ。「昔やっていたことをみせてください」言うて沢山の人が来てくれて、一緒にお酒を飲んでな。

作品を作りながら、また、半刈りやローズになりながらも会社員として働いていたんですよね?働きながらの作品作りは大変だったのでは?

うん、40年くらい。大変では無かったよ、生活の為やわ!睡眠時間とか、やりたいことがいっぱいあったから少なくても苦では無かった。仕事はもの凄い精密な事をやっとったよ。何ミリとかにこだわる、金属の仕事をね。

だから機械には慣れているのですね。

うん、そうだね。だからあまりにも日常をテーマとする作品と仕事が近すぎて、作品が作れなかった。逆にでっかい作品ばかり作っていったわけ。だから定年した後は、僕の持っている美意識をやってみたいなと。今の様な作品は2003年くらいからで、まだ4、5年しか経ってないねん。

いつも作業はお一人ですか?

大体、作るのは一人やけど、こんなん展覧会とかは作品数も多いし、部品も多いから手伝ってもらったりしている。僕は今まで自分のできる範囲でしか発表の場を設けてなくて自宅を開放して1年、2年もかけてやってたりしてたからな。だから定年してからこんな展覧会に呼んでもらったりしてると人との出会いが多くて、それも僕の作品に影響してくるね。一緒にやって、飲みにいったり、また会いに来てくれたり。そういう人に出会ったり、モノを見たりが凄い僕自身を作ってくれる。僕は人が大好きだから嬉しいんよ。そして僕は神戸にアトリエを持ってるんだけど、展覧会が決まって作品が決まったらその作品に合うアトリエを自分で探して借りてるんよ。

移動しているという事ですか?

うん、空間に合ったサイズで作りたいから、場所を移動してその作品のために倉庫を借りてる。他所の会社を借りたりしてな。そこから自分を出られないようにしている。僕は倉庫にしても、作品に使う部品であっても、自分の身の丈に合ってるものしか使わないようにしてる。自分でできる範囲、自分で持てる部品。僕一人でできるようなやり方をしている。だけど歳をとるとやっぱ体がしんどくなるから、今は手伝ってもろうたりしてるけどな。それも試練やけど。

榎忠
榎忠「Falcon-H2D2」 Photo: Yoshisato Komaki

作品は展示が終わったらすぐ壊してしまうそうですね?

あんなでかいの売れるはずないやんな。だから壊す。売ろう思うて、残そう思うて作ったら自分の作品にはならない。絶対変なもんになるのが分かるもん。中途半端にやってはいけないと思うねん。時間とか金とかに制約があったら、自分のものにはならへん。そしてやるときから壊すことを考えて作業をしてんねん。残すということを考えたことがないな。壊していく作業は、次に自分がやりたいことが見えてくるから壊しているし。自分のこの先に何があるんやろうと、次への意欲が湧くねん。

定年されて、これからは制約もなく好きな事ができますね!

そうやな、誰にも束縛されんとやりたいことができるな。逆にやりたいことがありすぎて、中々作品ができないねん!それほど自由いうんは何かがあるから何かを求めるんやな。

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