ミュンスター彫刻プロジェクト 2007
HAPPENINGText: Kana Sunayama
美術館という施設を対象にした作品がトーマス・シュッテの「Model for a Museum」であるとするならば、ミュンスター彫刻プロジェクトの永遠のテーマであるパブリックアートを常にテーマにした作品を発表し、今年のドクメンタ12にも参加し、フリデリツィアヌム美術館の前の広場に作品が設置されていた、1961年生まれのドイツ人アーティストであるアンドレアス・ジークマンも、10年前と同様に「Trickle down. Public Space in the Era of its Privatization」という作品で参加していた。
インスタレーションのタイトルが示すように、アンドレアス・ジークマンは社会と都市の公共スペースの市場化と民営化を、皮肉を交えて非難する作品作りをしている。
道と道の角に位置する柵で囲まれた、何か歴史的な雰囲気を持つ建物の前の広場に設置されている2つの大きな作品。
Andreas Siekmann, Trickle down. Public Space in the Era of its Privatization
まず左側には青いトラックのような形の表面にオレンジ色のモチーフが貼られている作品。
Andreas Siekmann, Trickle down. Public Space in the Era of its Privatization
そして右側にはカラフルなパステルカラーのがらくたのようなもので形作られた大きな球状の作品。
近づいてみると、どうも動物の体の一部のよう。馬や牛、象の頭部や足の形の破片が廃棄物のように積み重ねられている。
Andreas Siekmann, Trickle down. Public Space in the Era of its Privatization
これ、一体何?と思っていると、建物の前の広場を囲む柵の下をうまく利用したフリーズが目に入ってくる。最近世界中の都市で、牛や熊などの動物をモチーフにして町中にファイバーグラスでできた彫刻を設置するのが流行しており、比較的大きな街に行くと、しょっちゅう出くわす「パブリックアート」。
このような、街と企業が手を組んで、様々なアーティストにペインティングさせ、企業はスポンサーとして資金を出し、街はパブリックスペースを提供し、街も企業もアートや文化に貢献しているつもりでいる、というようなプロセスをイラストで皮肉たっぷりに紹介したもの。
Pawel Althamer, Path
最後に今回のミュンスターで最も詩的な作品。パヴェウ・アルトハメルによる「Path」。どこまでも続く小道。
以上、今回のミュンスター彫刻プロジェクト07に参加した36名のアーティストのうち、何名かの作品だけを紹介する形をとったが、ミュンスターにはドクメンタや世界中に散在するビエンナーレのように、毎回「テーマ」が明確に示されないので、一国際展として全体の評価をするというのは非常に難しいというのが現状だ。
強いて言えば、4度目を数え、21世紀初のミュンスター彫刻プロジェクトであった今回は、以前までのアメリカ人アーティストたちに代表される巨大彫刻の数々と異なり、ドイツ在住の現代アーティストたちに視点が置かれ、各々のプロジェクト自体もより小規模なもの、個々の内面や精神面を表現するような作品が多く見受けられた。
10年に一度というスパンの長さもあり、なかなか開催期間中に訪れることの難しい国際展ではあるが、開催中ではなくとも、パブリックアートとして永久展示され、ミュンスター住民の生活の一部となっている多くの作品はいつでも観ることができる。また、ドイツの田舎の小さな街らしく、緑も多く非常に気持ちの良いところなので、ドイツ巡りをされることがあれば是非足を運んでもらいたい。
ミュンスター彫刻プロジェクト 07
会期:2007年6月17日(日)〜9月30日(日)
会場:ドイツ・ミュンスター
https://www.skulptur-projekte.de
Text: Kana Sunayama
Photos: Kana Sunayama