ミュンスター彫刻プロジェクト 2007

HAPPENINGText: Kana Sunayama

今年のヴェネツィア・ビエンナーレで、隣同士に並んでいるフランス館のソフィー・カル、イギリス館のトレイシー・エミン、ドイツ館のイザ・ゲンツケンと、3国とも女性アーティストの選出でも話題になったが、ミュンスターには1987年、1997年と参加し、もう常連になってきているイザ・ゲンツケンの作品を今回も見ることができた。


Isa Genzken, Without Title

10体ほどの人形がパラソルと共に、教会の横の広場に展示されているインスタレーション作品。暴力的な太陽光線の下、グロテスクな彩りとフォルムを持つそれらの人形やパラソルは非常に哀しげな面を持つ一方、私たちを攻め立ててくるようだ。


Isa Genzken, Without Title (Detail)

次はミュンスター彫刻プロジェクト07の中で、思わず笑いを誘った作品を2点、紹介しよう。

まず一つ目は現在ベルリン在住のイスラエル人アーティストで、2005年ヴェネツィア・ビエンナーレでイスラエル館を代表し、一躍注目を集めたガイ・ベンナーの「I’d give it to you if I could, but I borrowed it」。


Guy Ben-Ner., I’d give it to you if I could, but I borrowed it

展示室に入ると、自転車が3台設置されている。中心地から少し離れたこの展示室へ来るために、私たちは徒歩、あるいは自転車に乗ってきている場合が多いので、また自転車に乗るのか、、、と少し疲れを感じるかもしれない。それでも自転車のひとつにまたがって漕ぎ出してみる。そうするとハンドルの上に設置された画面にビデオ作品が流れ始める。


Guy Ben-Ner., Treehouse Kit

2005年ヴェネツィア・ビエンナーレで展示されていたビデオ作品「Treehouse Kit」では現代のロビンソン・クルーソーと化したガイ・ベンナー自身がIKEA製の家具でできた一本の木から、テーブルや椅子、ベッドを作り出すという、ユーモアに富んだ構成であったが、今回のミュンスターではIKEAではなく、ミュンスター現代美術館の、ある一室に偶然にも展示されていたピカソの「Bull’s Head」、デュシャンの「Bicycle Wheel on a Stool」、ティンゲリーの「Cyclegraveur」、そしてボイスの「Zerstorte Batterie」を、監視員の寝ている隙にガイ・ベンナーと子供たちが拝借するというものである。


Guy Ben-Ner., Treehouse Kit

そしてでき上がったものは、ミュンスター名物のひとつである、自転車。ミュンスターは自転車での移動を住民に振興し、気持ちの良い散歩道や自転車に安全な道路作りが成されているので有名な街である。そんなミュンスターの街を現代美術館から拝借して作った自転車にガイ・ベンナーと子供たちが乗って、彫刻プロジェクト巡りをするのである。まさに私たちがわざわざドイツの田舎町ミュンスターくだりまでやってきてしていることと同じ。

ビデオ作品は、観客が乗っている自転車のべダルが原動力になっているので、美しいシーンではゆっくりこげばビデオもゆっくり進み、少し飽きてこれば早くこげば早送りになる。また、見逃したシーンやもう一度見直したいシーンがあれば後ろ向きにこげば巻き戻しになるのである。ビデオに夢中になっているのであまり気づかないが、ビデオが終わったときには結構な運動量になっている。自転車を降りて展示室を後にし、ふと振り返ってみると、窓から自転車を必死でこいでいる人たちが見え、展示室はまるでジムのようだった。

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