津田道子

PEOPLEText: Ayumi Yakura

世界中の応募から“現代”を映す表現が集結するメディア芸術の総合フェスティバル「文化庁メディア芸術祭」より、記念すべき第20回の受賞者が発表された。SHIFTでは、枠と鏡と映像装置を用いた空間を鑑賞者が歩き回るメディアインスタレーションで「表現の新鮮さと緊張感、思考の厚み」が評価され、アート部門において日本人で唯一の新人賞を獲得した津田道子に、受賞作品やこれまでの表現活動、及びその思考についてお話を伺った。

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Photo: Kazuyuki Matsumoto © Michiko Tsuda

まずはじめに、自己紹介をお願いします。

津田道子です。映像の特性を扱った映像やインスタレーション、パフォーマンスを制作している美術家です。

2013年に、東京藝術大学大学院(映像メディア学博士)で「映像の中のSubjectとObject」という修了論文を発表されていますが、このテーマに取り組まれたきっかけは?

博士課程は、私がそれまで“映り込むこと”や“カメラや鑑賞者の存在”を扱ってきた、制作の背景を整理・分析するのにいい機会だと考えました。そのときに、「映像」や「鏡」や「枠」を作品の素材としていたのは、見る側のモードが変わることに興味があるからと気づきました。画面内ではささいな変化でも、画面の外のことに気づくと見え方が変わったり、それまで見えなかったものが見えたりしますよね。

だから論文では、“見るときに起こることを分析する方法”を作ると、作品と論文が相補的におもしろい関係をつくれると考えて取り組みました。文中で、英文法の主語(subject)と目的語(object)で、撮影するときの被写体(subjectともobjectともいう)や、映像を見るときの主体と客体(これもsubjectとobject)を分析することを試みました。

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“You would come back there to see me again the following day.”, 2016, Installation view at NTT InterCommunication Center [ICC], Tokyo, Open Space 2016: Media Conscious, Photo: Tadasu Yamamoto © Michiko Tsuda

この度、第20回 文化庁メディア芸術祭で日本人としては唯一の新人賞を受賞されたメディアインスタレーション「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」(You would come back there to see me again the following day.)とはどのような作品ですか?タイトルも印象的です。

枠と鏡とビデオカメラ等の映像装置を用いたインスタレーション作品です。同じ形をした枠を複数吊って、そこに鏡が入っていたり、空だったり、映像がプロジェクションされていたりして、その空間を鑑賞者が自由に歩き回って、自分が思わぬところに映り込んでいるのを見つけます。なぜそこに映っているのか直感的にわからないこともあるので、見られていることを意識しつつ、そこで何が起こっているのか確認しに巡ることになります。


“You would come back there to see me again the following day.”, Installation, 2016, NTT InterCommunication Center [ICC], Tokyo, Open Space 2016: Media Conscious © Michiko Tsuda

このタイトルは論文の内容と関わっているのですが、英文法の話法で「She said, “I am here”.」(彼女は言った、「私はここにいる」。)という場合、間接話法に書き換えると「She told me that she was there.」(彼女はそこにいたと私に言った。)と、引用句の中の主語が入れ替わります。この主体の入れ替わりが、映像を見るときにも起こっているのではないかと考えました。引用句を映像の枠だと捉えると、映像の登場人物に感情移入し、映像の枠の中の出来事に没入することが、引用句の中に入ることと考えると、ちょうど作品でやろうとしていたことと似たことが起こっていることに気づきました。

見る人の状態によって、枠の中を切り取って見たり、枠の外と中をつながっているものとして見たりと、直接話法で見るか間接話法で見るか変わってしまいます。実際には、一つの文の途中で変わったりもしているので、自由間接話法という文脈によって意味が変わる文のタイトルにしていて、「you」(あなた)、「there」(そこ)という言葉が何を指しているのか、明確にしていません。

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