ドローイング・センター
PLACEText: Garry Waller
マンハッタン・SOHO地区の細い裏通りを歩いていたとき、ドローイング・センターという場所を偶然に見つけた。その名前に私は立ち所に心惹かれ、もっと知りたいと考えた。そこで解ったのは、ドローイング・センターは、歴史的作品から現代作品まで、ドローイングを専門にしているアメリカで唯一の美術館だということだった。無名のアーティスト達に作品を公に発表する機会を与え、一つの重要な美術的メディアとしてドローイングというジャンルを知らしめるために1977年に設立。アートとカルチャーの分野において人々の議論に刺激を与えるという面でも非常に活動的な役割を果たし、また参加アーティストと共にワークショップやセミナーも開催している。
Matt Mullican, Installation View. Photo: Cathy Carver
現在開催中の個展は、ニューヨーク在住のアーティスト、マット・マリカン(1951年、カリフォルニア・サンタモニカ生まれ)。催眠状態のなかで生み出される、図形や神秘学的な模様、手書きの断片からドローイングに至るまで様々な彼の作品は「世界の見方を分類し、整頓し、記述し、計画し、そして表現する」ものと称される。
Matt Mullican, “Untitled,” 2006. Mixed media on bulletin boards, each: 96 x 48 x 3 inches. Photo: Courtesy of the artist and Tracy Williams, Ltd.
彼のこれまでの作品から200点以上を展示するこの個展では、未発表作品も含んだドローイング、ノート、チョーク画、ビデオ、そしてメディアミックス作品などを鑑賞することができる。マリカンの作品は、そのスタイルの混合がとても興味深く、展示スペースを見てまわるうちに、長年をかけて彼が紙の上に宿らせてきた多様なアプローチ、幅広いアイディアを感じることができる。彼のシンプルで視覚的アイロニーを含んだスタイルのなかに見られる図表や建築的な方式から、その作品は道路標識や自然科学的な規則に影響を受けていると言われる。コンピュータで作られる図形作品がますます増加する現代において、壁から壁へとめぐらされた彼の手作りの仕事を鑑賞するのは私にとってうれしい体験だった。図形、走り書き、テクスチャーや、直感的に創造された絵画にあらわれる「人間らしい」要素は、マリカンの独自性を際立たせている。
M/M (Paris), Stools from the exhibition “Just Like an Ant Walking on the Edge of the Visible,” 2008. Photo by Lisa Quiñones Courtesy Haunch of Venison, London & New York
この展示では、通りの向こうの会場でもう一つのインスタレーションが見られる。マイケル・アムザラグとマティス・オーギュスティニアックのクリエイティブユニット、M/M(パリ)のデザインワークである。彼らの作品は写真、複雑なイラストレーション、手書きの書体を組み合わせたものでよく知られている。今回はこの展示スペースのために制作されたデザイン作品で、シルクスクリーンのフォントで装飾された、木と金属でできた41個のスツールのインスタレーション。それぞれのスツールの脚が、M/Mのシグネチャーレターの中の一文字を型どっている。ある特定の位置からこのスツールを見ると、この展示のタイトル「Just Like an Ant Walking on the Edge of the Visible(視界の境界線上をアリが歩いているように)」という一文が読めることが分かるだろう。これはM/Mのドローイングに対する信条であり、彼らがアートスクールの教授から教わった言葉のようだ。
ドローイング・センターとの偶然の出会いは素敵な驚きをくれた。また訪れてみたい。
The Drawing Center
営業時間:10:00〜18:00(土曜日11:00から)
住所:35 Wooster Street, New York, NY, 10013
TEL:212-219-2166
https://drawingcenter.org
Text: Garry Waller
Translation: Shiori Saito