エクストラウェグ
PEOPLEText: Victor Moreno
Extraweg(エクストラウェグ)として知られるドイツのアーティスト兼ディレクター、オリバー・ラッタ。彼の作品は、高く評価された Apple TV+ のシリーズ「セヴェランス(Severance)」でご存じの方もいるかもしれない。シーズン1の、不気味でシュールなオープニングタイトルシークエンスで、彼はエミー賞を受賞した。シーズン2でも新たなオープニング映像を控えており、さらなる評価を得ることになるだろう。オリバー氏は、夢のような感情と、美と混沌の間の緊張感を融合させるアーティストだ。彼はユーモアを織り交ぜながら、彼ならではの独自の視覚言語を確立してきた。おそらく、この点がベン・スティラー監督の目にも留まったのであろう。スティラー監督がインスタグラムのフィードで彼の作品「thumb-stopping(サム・ストッピング/思わず指を止めてしまうものという意味)を見たときのことだ。『エクストラウェグという名前の人をインスタグラムで見つけた。彼は、脳から赤ちゃんが出てきて、ゼリーのようになるという、奇妙なアニメーションを作っていた。「これはすごい」と思ったので、すぐに彼に連絡を取った。彼はそれまでオープニングシークエンスを手がけたことはなかったが、彼の感覚がこの番組にぴったりだと感じたのだ』とスティラー監督は説明している。オリバー氏は、デジタル3D世界の制作で大いに活躍しているが、現在は映画監督やストーリーテリングにも焦点を広げている。私たちは、ビジュアルアーティストである彼に、AIイノベーションを乗りこなす彼の道のりや、エミー賞を受賞した成功について直接話を聞きたいと思った。彼は国際的に作品を展示しており、ファンが彼の作品に新しく手に取れる形で関わることを可能にするプロダクトラインなど、コレクター向けに新しい作品のリリースを準備しているようだ。

Oliver Latta
クリエイティブな経歴と教育について少し教えていただけますか?
私はドイツ、ザクセン=アンハルト州のデッサウにあるバウハウス大学でデザインを学びました。そこでクリエイティブな仕事における芸術的側面と技術的側面の両方において、確固たる基礎を培いました。その前には理学療法(フィジオセラピー)の学位を取得しています。これは無関係に思えるかもしれませんが、人間の動きと解剖学に対する唯一無二の理解をもたらしてくれました。これらの要素は、現在の私の3Dアートやアニメーションに対するアプローチに影響を与え続けています。
時を経て、私は3Dアニメーションとデジタルアートのスキルを磨き上げ、シュルレアリスム(超現実主義)とハイパーリアリズム(超写実主義)を融合させています。また、ドイツ第二の都市といわれるハンブルクにある、モーションデザインや3Dアートで知られる有名なプロダクションスタジオ「Sehsucht(ゼーンズフト/ドイツ語で憧憬という意味)」でも働きました。そこで働いていた期間、主要ブランドのプロジェクトに携わる機会を得たことは、商業的な文脈と実験的な文脈の両面で、自身のスキルを磨くのに役立ちました。このデザイン、より具体的で物理的な動き、そしてデジタル探求の組み合わせが、今日の私の作品に対するアプローチを形作っています。
あなたは現在、常に進化し続ける象徴的な都市、ベルリンを拠点にされています。この街で暮らす中で最も好きな点は何ですか?また、この都市の変遷はあなたにどのような影響を与えましたか?
ベルリンは信じられないほどダイナミックな都市です。歴史がイノベーションと交わり、伝統的なアート形式が最先端のテクノロジーと共存しています。私が最も気に入っているのは、実験的な試みができる自由さと、クリエイティブなシーンが絶え間なく進化し続けている点です。
ベルリンの多様な文化と、非順応性を受け入れる姿勢は、私が独自の表現方法を確立する上で非常に役立ちました。この街は私に慣れ親しんだ環境から踏み出し、新しいことに挑戦することを促してくれます。それにより、伝統的なアートとモダンなデジタル技術を調和させる多様な方法を探求することができています。
© Extraweg 2020
Extraweg Studioについても教えてください。いつから始まりましたか?また、お一人で活動されているのですか、それともチームがありますか?
Extraweg Studioは、3Dデザインとアニメーションの限界を押し広げるための、個人的なクリエイティブ表現の場です。私は主に一人で活動し、クリエイティブなプロセス全体をすべて管理していますが、大規模なプロジェクトではフリーランサーやプロデューサーと協力します。この柔軟性により、核となる芸術的方向性を、深く個人的で実験的なものに保ちつつ、プロジェクトのニーズに応じてチームの規模を調整することができます。ですから、基本的にはソロですが、必要に応じて共同作業者とともに、作品を向上させています。
初めてあなたの作品に出会ったとき、すぐに夢中になり、同時にどこか親しみを感じるデジャヴュのような感覚を覚えました。特に、あなたのスタイルに大きな影響を与えたアーティスト、映画制作者、またはクリエイターはいますか?
私の影響源は非常に多岐にわたり、シュルレアリスム、抽象芸術、そして日常生活からインスピレーションを得ています。私のスタイルを形作っているのは、これらの影響と、形、テクスチャ、人間の感情の複雑さの探求を組み合わせたところにあります。特定のアーティストの軌跡を辿るよりも、その瞬間に意味があると感じられるものを試してみることに焦点を当てています。これにより、決められたスタイルに囚われることなく、私自身のアプローチを進化させることができます。
あなたの作品の多くは、人間の経験を独自の方法で探求しています。内面的な感情や心理状態を、どのように視覚的な形へと変換するのですか?
人間の形を歪ませたり、抽象的なテクスチャを使用したりすることで、複雑な内面的な経験、つまり内なる混乱、緊張、解放といったことの本質を、直接的に描写することなく、捉えようと試みています。これらの表現で意図していることは、視聴者がそれぞれ独自の視点を通して作品と繋がることができるよう、個人的なレベルで共感する感情を呼び起こすことです。
あなたの作品にはユーモアも少し加えられています。それはどれほど重要だと思いますか?そして、作品に何をもたらしますか?
ユーモアは私の作品において極めて重要です。なぜなら、より深く、より複雑なテーマにアクセスしやすくするからです。作品の強烈なあるいはシュールな側面とのバランスを取り、圧倒されにくく、より魅力的にしてくれます。ユーモアは、軽やかさと繋がりの瞬間を生み出すことができ、より重たいテーマを扱いながらも、内省のための余白をもたらします。それは、視聴者を疎外することなく作品に招き入れるひとつの方法であり、作品に親しみやすさを加えてくれます。
あなたの作品には、シュールでありながらディストピア的でもある、際立った雰囲気があります。あなたの芸術と、それを取り巻く世界との関係をどのように考えていますか?
私の作品は、私が世界に見る矛盾を反映しています。そこでは、美と混沌が共存し、平穏と争いが複雑に絡み合っています。私は、シュールでディストピア的なイメージを用いて、個人的な認識と社会的な現実の間の緊張を表現しています。私の芸術は、人間の経験、特に、言葉にされにくい、あるいは明確に表現するのが難しい、感情的・心理的状態の複雑さや微妙なニュアンスを可視化する方法なのです。そして、視聴者が、自分自身の生活の中にあるこれらの対立について内省するよう誘います。
監督、脚本、ポストプロダクションなど、さまざまなクリエイティブな役割を担われておりますが、制作過程において最もやりがいを感じるのはどの側面ですか?
私が最も満足感を得るのは、アイデアが形になり始める、制作の初期段階です。アイデアが発展し、感情やテーマを視覚的に表現するためのさまざまな方法を試す期間ですね。また、Houdini(フーディニ)のようなツールを使うことによる技術的な課題も楽しんでいます。そこでは、複雑なシミュレーションやセットアップを試すことができます。私のビジョンが意図した通りに正確に実現されるよう、あらゆる細部をコントロールできるということは、信じられないほど充実感があります。私にとって、創造的な側面と技術的な側面は絡み合っており、プロセス全体がやりがいをもたらしてくれます。
続きを読む ...





