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津田道子

PEOPLEText: Ayumi Yakura

津田さんの作品は多くの場合、映像、インスタレーション、パフォーマンスに共通して、演出しているのにドキュメンタリー性がある、という矛盾を成立させている事や、「現実世界とバーチャル・リアリティの境界」で、誰もが、体験してみたくなるようなゲーム性を孕んでいる事にとても興味があります。これらは意図されての事でしょうか?

はい。意図しているところはあります。映像の撮影をするときに、パフォーマーと振付をつくって練習するのですが、撮影セットが起こす視覚的な現象は完璧にコントロールできません。だから、振付を決めて厳密につくったとしても、即興が入り込む隙になっていて、それによって生まれるドキュメント性は意図しています。

ただ、元々空間を作ることからはじめて、空間を記録する為の方法として映像を扱っていました。だから、空間の特性を伝えて映像作品として成立させるために、パフォーマンスを扱い、演出をしますが、空間や出来事を記録する手段として撮影するのでドキュメント性も出てきて、結果的にフィクション(演出的なもの)とドキュメントが共存している面もあると思います。


“You would come back there to see me again tomorrow.”, Installation, 2013, Documentation Movie at Bangkok Art and Culture Center, MEDIA/ART KITCHEN © Michiko Tsuda

現実とバーチャル・リアリティと言えるかは分かりませんが、映像の中の空間だけでなく、現実の空間とつながるところや、実空間が映像のように見えることについて考えます。また、ゲーム性とまでいくかは分かりませんが、知らないうちに体験になっていた、という展示になるのがベストだと思っています。

元々はエンジニアを目指されていたそうですが、メディアアーティストとして、CGをはじめとする新進のデジタル・テクノロジーは活用されないのでしょうか?

エンジニアを目指していたというよりは、工学系を専攻していたことがあって、そのことは今の活動に影響していると思います。自分は技術開発や、技術で問題解決をするタイプではないなと、大学でエンジニアに向いていないと気づいてからも技術に興味はあります。何らかの技術を使って、問題を投げかけ、役には立たないけど考えるきっかけになるものをつくるのがアーティストの仕事の一つだと思っていて、特にデジタル・テクノロジーにこだわっていないです。


“Yeu & Mo”, Video, 2007-09 © Michiko Tsuda

最新の技術は、これまであったものの積み重ねや発展してきたものなので、古くからあるメディアにも他の展開の可能性があったかもしれないですし、技術の発展は人の欲望や要求によるもので、それ自体がすごく強く、技術から読み取れることやなぜそれが可能になったのか、ということにはいつも興味があります。

自分の素朴な身体感覚を大事にしているので、結果的に身近なメディアを扱っていますが、これまで、3Dプリンタを使う機会があったときに、いくつもの空港で撮影した映像から3Dモデリングを起こして、3Dプリントして、複数の空港がつながった立体をつくるプロジェクトをしていましたし、VRも体験できることが増えてきて、興味があります。もっと知られていないテクノロジーも自分に引き寄せられれば、扱うかもしれません。

日本国外ではこれまでに、ロシア、スロバキアで個展を開催し、アメリカやヨーロッパ、アジアなど世界各国でグループ展やアーティスト・イン・レジデンスに参加されていますが、異文化での活動経験が作品に反映される事もあるのでしょうか?

はい。その土地にいることで得る気づきを形にすることはあります。インドネシアに何度か行っていたときは、公用語のインドネシア語には元々文字がなく、知識やお話が本ではなく口承によって伝えられてきたそうです。それまでそういう文化に触れたことがなく、衝撃を受けました。そこで口承によってどうやって話が変わっていくのか映像で記録していく実験をしました。


“Journey”, Collaboration with Caroline Bernard, 3D print object, 2013, Cooperation: UQAM, Montreal, Photo: Damien Guichard © Michiko Tsuda

他にも、空港を撮影した映像から3Dに起こすプロジェクト「Journey」(旅)は、移動をすることから制作をできないかと考えていましたし、知らない土地を訪れるとき、時間があるときはローカルな博物館を訪ねて、展示物のミニチュアなどを撮影させてもらえるところは、撮影して素材を集めています。ミニチュアが見せるイメージも興味深いですが、その国の文化をどういう風に伝えようかという意思がいろんな形で現れているところも魅力的な被写体だと思っていて、ある程度素材がたまったら、その素材で映像作品にすることを構想しています。

直接的ではないですが、引っ越しや転校が多かったためか、どこかに定住してそこで生きて行くという考え方があまりなくて、知らない土地や異文化に触れることは身近に起こることでした。知らなかった土地に滞在したことを直接反映することもあれば、自分のしてきたことを相対化する機会になって、創作意欲が湧くことは大いにありましたし、ものの原理に関心が向かったと思います。

9月16日から東京で開催される「第20回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」では、津田さんを含む、世界88の国と地域の4,034作品から選ばれた作品、150点以上が一堂に紹介されます。メディアアートに興味を持つSHIFT読者へメッセージをお願いします。

ぜひ初台に足をお運びください!

第20回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2017年9月16日(土)~28日(木)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC](東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー 4F)、東京オペラシティ アートギャラリー(東京オペラシティタワー 3F)、他 ※時間、休館日は会場により異なる
入場無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-5459-4668(文化庁メディア芸術祭受賞作品展インフォメーション)
https://festival.j-mediaarts.jp

Text: Ayumi Yakura
Photos: Courtesy of the artist, © Michiko Tsuda

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