伊賀信個展「ドット・ストライプ・クロス」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

作風の原点は、建築士だった父親の設計図面に美しさを見出した少年時代にあるようだ。成人してからも幾何学的・抽象的なモチーフに惹かれていたが、当初は「まずは具象画を究めてから、抽象画に取り組むのが正しい順序だろう」と心に決めて、実際に写実的な人物画などを描いていたという。

しかしながら転機が訪れた。ある時、知人のギャラリーオーナーから『今できる抽象作品を作ればいい』という助言を聞いた途端、伊賀はそれまで “自分で自分の可能性を封鎖していた” ことに気づき、心に抱えていたモヤモヤが一気に晴れて、その後は躊躇なく “今の自分にできる” 抽象作品の制作ができるようになったという。

ARTX_IGA_07.jpgARTX_IGA_05.jpg現在は、セルフマネジメントの視点より、社会へ向けて作品を発表するうえで、個人名では作家性が伝わりにくいと意識したことから「G.A.A.L」(幾何学的抽象芸術実験室)を立ち上げ、例えば、最もシンプルで美しい「物と物」との関わり合いの一つ「直角の交差」を主体に図柄を構成するという「基本ルール」に則って、木材を素材とした創作実験を試みるなど、精力的に活動している。ギャラリーでの展示をはじめとして、今年札幌にオープンしたクリエイティブ複合施設「ミュージアム」や、話題の商業ビル「赤レンガテラス」1階にできた飲食店からの展示オファー、札幌芸術の森美術館の企画展で好評を得た親子体験型の作品や、屋内の床面や壁面を大胆に利用した積み木のインスタレーションも注目されており、近年、北海道内で発表された作品に限ってもその表現は多岐に渡る。

新作「ドット+クロス No.1」は、真正面から見ると黄色い長方形に銀色の点が整列した作品だが、斜めから見ると、直角に立つ棒の長短によりX型の立体的な実像が浮き上がる。

ARTX_IGA_01.JPG

さらに、照明の角度を変えれば棒の影が伸び、平面的な虚像を映しだす。伊賀の言う「斜めの視線から眺めた直角の美しさ」を様々な角度で見て確かめながら、繰り返し緊張感と充足感を味わえる作品だ。

iga_A.JPG

さらに本展では、白・赤・黒を基調とした新作「クロス No.1〜3」にも見られる、直角ではない斜めの交差やフリーハンド的な幾何学パターンも取り入れた自由な表現にも注目したい。元より、表現に抑制の効いた作品の奥にも感じられた、模型作りに熱中する少年のような純粋なエネルギーが、解放されてなお空間と調和して心地良いコントラストを生み出している。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE