伊賀信個展「ドット・ストライプ・クロス」
HAPPENINGText: Ayumi Yakura
作風の原点は、建築士だった父親の設計図面に美しさを見出した少年時代にあるようだ。成人してからも幾何学的・抽象的なモチーフに惹かれていたが、当初は「まずは具象画を究めてから、抽象画に取り組むのが正しい順序だろう」と心に決めて、実際に写実的な人物画などを描いていたという。
しかしながら転機が訪れた。ある時、知人のギャラリーオーナーから『今できる抽象作品を作ればいい』という助言を聞いた途端、伊賀はそれまで “自分で自分の可能性を封鎖していた” ことに気づき、心に抱えていたモヤモヤが一気に晴れて、その後は躊躇なく “今の自分にできる” 抽象作品の制作ができるようになったという。
新作「ドット+クロス No.1」は、真正面から見ると黄色い長方形に銀色の点が整列した作品だが、斜めから見ると、直角に立つ棒の長短によりX型の立体的な実像が浮き上がる。
さらに、照明の角度を変えれば棒の影が伸び、平面的な虚像を映しだす。伊賀の言う「斜めの視線から眺めた直角の美しさ」を様々な角度で見て確かめながら、繰り返し緊張感と充足感を味わえる作品だ。
さらに本展では、白・赤・黒を基調とした新作「クロス No.1〜3」にも見られる、直角ではない斜めの交差やフリーハンド的な幾何学パターンも取り入れた自由な表現にも注目したい。元より、表現に抑制の効いた作品の奥にも感じられた、模型作りに熱中する少年のような純粋なエネルギーが、解放されてなお空間と調和して心地良いコントラストを生み出している。
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