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小林俊哉個展「取り返しのつかないものを取り戻すために」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

北海道で生まれ、現在は東京・ドイツ・スイスを中心に活動を行っている作家・小林俊哉の個展「取り返しのつかないものを取り戻すために」が、5月31日までクロスホテル札幌にて開催されている。

小林俊哉は長年に渡り、植物をモチーフにした絵画作品を制作している。今回初めて、2011年の東日本大震災が発生する以前に描いた旧作と、その後の新作が併せて展示された。あれから3年が経ち、ホテル2階のロビーと、隣接するミートラウンジに並べられた新旧の作品を見比べて、作家自身が表現の変化を再認識している。

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ロビーに展示された旧作の《Those who never say anything》(2002年)は、黒地に黄緑色の葉茎が描かれた、一見シンプルな作品だ。細かな葉脈などは見られないが、自然体の姿が描写された輪郭は、見れば見るほどそれが植物であることを感じさせる。

小林にとって植物とは、何よりも身近な存在であり、等身大の自分を表現するのに共感できるモチーフだという。その根底には、樹木医のような知識を持った父親に連れられ、少年の頃から北海道各地の大自然の中で、植物への接し方を教わりながら育ってきた記憶がある。

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ラウンジには《永遠と一日》(2010~2011年)という題の、白地に黒い葉が描かれた《葉》と、黒地に白い木蓮の花が描かれた《木蓮》が展示され、ランチタイムから日暮れにかけては、西向きの窓より自然光が入る。移ろいゆく時の中で、植物のある風景が人の心を穏やかにする瞬間と、植物がそのような存在であることの普遍性が、白と黒のコントラストとなって純粋に表れているようだ。

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新作シリーズ《取り返しのつかないものを取り戻すために》(2013~2014年)には、震災発生以後の変化が表れている。ホテルを訪れる人に違和感を与えないよう、常設されているかのように選ばれた作品が、板張りの床とレンガの壁に馴染み、優しい雰囲気の空間を生みだしている。込められたメッセージは、絵の前で立ち止まり、見つめることで感じることができるだろう。

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葛西由香
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