伊賀信個展「ドット・ストライプ・クロス」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

北海道を拠点に「G.A.A.L」(幾何学的抽象芸術実験室)を主宰している美術家・伊賀信が、クロスホテル札幌にて個展「ドット・ストライプ・クロス」を2014年9月3日から開催している。

タイトルに表された3つのキーワードは、これまでも伊賀作品を構成してきた基本要素だが、それらを冠して作品を発表するのは今回が初だという。シンプルなのに独創的、スタイリッシュなのに普遍的で、無機質なようでどこか心地良さを感じさせる「幾何学的造形」。その謎に迫る絶好の機会だ。

ミートラウンジで開催されたオープニングレセプションでは、ホテル3階のコンテンポラリー・イタリアン「レストラン アゴーラ」の計らいにより、伊賀作品にちなんだ「ドット・ストライプ・クロス」と「白・赤・黒」をモチーフとした特別メニューが多数の参加者を楽しませていた。

ガラスで一面が覆われたホテル1階のエントランスには、ナチュラルな積み木で構築された幾何学的造形が宙へ浮かぶように設置されており、2作品それぞれの造形美を前後左右から見比べることができる。

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2階ロビーとミートラウンジの壁面には、長方形の板をベースとして、ドット・ストライプ・クロスからなる約20作品の幾何学造形が洗練された色合いで並べられている。

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クロスホテル札幌では、2007年のオープン以来、「ART X(アートクロス)」と題して館内でアート作品の展示などを行ってきた。2011年からはSHIFTとのコラボレーションにより道内作家の展覧会を行い、札幌から世界へ向けて発信している。本展は「まちなかアート・クロス・エディション」としてクラークギャラリー+SHIFTがキュレーションを担当する展覧会の第13弾。「まちなかアート」とは、街中にアートが溢れ、気軽に楽しめる環境づくりを目指す札幌から展開中のプロジェクトで、ギャラリー・作家・店舗が一体となりアートのある日常をつくるというもの。

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ギャラリーのような鑑賞空間ではないホテルだからこそ、アーティストとして約30年間「作品と空間の調和」を追求し、他方インテリアコーディネーターとしても実績を重ねてきた、伊賀の優れたバランス感覚による調和が見所の一つとなっている。
伊賀にとって『調和』や『バランス』が重要な価値観であろうことは、創作及び生活の拠点としている札幌の魅力を「四季のはっきりした、生活圏と自然が上手く重なっている都市」と語っていることからも窺える。

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作風の原点は、建築士だった父親の設計図面に美しさを見出した少年時代にあるようだ。成人してからも幾何学的・抽象的なモチーフに惹かれていたが、当初は「まずは具象画を究めてから、抽象画に取り組むのが正しい順序だろう」と心に決めて、実際に写実的な人物画などを描いていたという。

しかしながら転機が訪れた。ある時、知人のギャラリーオーナーから「今できる抽象作品を作ればいい。」という助言を聞いた途端、伊賀はそれまで「自分で自分の可能性を封鎖していた」ことに気づき、心に抱えていたモヤモヤが一気に晴れて、その後は躊躇なく『今の自分にできる』抽象作品の制作ができるようになったという。

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2012年には、全国各地のギャラリーが参加した東京でのアートフェア「ウルトラ005」で、伊賀による抽象作品を出品した札幌のギャラリー創が、来場者の人気投票による「ベストウォール賞」を獲得している。

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現在は、セルフマネジメントの視点より、社会へ向けて作品を発表するうえで、個人名では作家性が伝わりにくいと意識したことから「G.A.A.L」(幾何学的抽象芸術実験室)を立ち上げ、例えば、最もシンプルで美しい「物と物」との関わり合いの一つ「直角の交差」を主体に図柄を構成するという「基本ルール」に則って、木材を素材とした創作実験を試みるなど、精力的に活動している。

ギャラリーでの展示をはじめとして、今年札幌にオープンしたクリエイティブ複合施設「ミュージアム」や、話題の商業ビル「赤レンガテラス」1階にできた飲食店からの展示オファー、札幌芸術の森美術館の企画展で好評を得た親子体験型の作品や、屋内の床面や壁面を大胆に利用した積み木のインスタレーションも注目されており、近年、北海道内で発表された作品に限ってもその表現は多岐に渡る。

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新作「ドット+クロス No.1」は、真正面から見ると黄色い長方形に銀色の点が整列した作品だが、斜めから見ると、直角に立つ棒の長短によりX型の立体的な実像が浮き上がる。さらに、照明の角度を変えれば棒の影が伸び、平面的な虚像を映しだす。伊賀の言う「斜めの視線から眺めた直角の美しさ」を様々な角度で見て確かめながら、繰り返し緊張感と充足感を味わえる作品だ。

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さらに本展では、白・赤・黒を基調とした新作「クロス No.1〜3」にも見られる、直角ではない斜めの交差やフリーハンド的な幾何学パターンも取り入れた自由な表現にも注目したい。元より、表現に抑制の効いた作品の奥にも感じられた、模型作りに熱中する少年のような純粋なエネルギーが、解放されてなお空間と調和して心地良いコントラストを生み出している。

伊賀はより大きな作品を発表する場を求めていると言うが、もしもこれらの作品が、実存する巨大な建築物や、眼前に立ちはだかる壁や柱、俯瞰した公園のジオラマだとしたら…と想像してほしい。
思えば私たちが生活する都市も、高所から見下ろせばドット・ストライプ・クロスの連続により構成されている。特に札幌は、市街地が碁盤の目状に区画された、いわば幾何学的造形都市だ。そんな視点で伊賀作品を鑑賞した後には、見慣れた街並みもテーマパークに見えるかもしれない。

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自然界においても、分子構造や氷の結晶などミクロの世界から、遠くに見渡す山並みなどのマクロの世界まで、幾何学的な造形が無数に存在している。ミートラウンジで壁一列に並んだ白色の4作品「ストライプ No.1〜4」からは、長方形の規格内に収められたシンプルな線の連続から、見渡す限りに広がる草原や、視界を覆う竹林、古代から重なる地層の断面など、具象を削ぎ落した抽象的な表現であるからこそ、時と自然が織りなす果てしない情景を想起させる。

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伊賀自身も「作品の先に風景や物語を感じる。」との感想がこれまでで最高の褒め言葉だと言うが、北海道新聞社の取材に「自分のつくる幾何学模様は完全じゃない。自然がつくり出す美しさに少しでも近づきたい。」との目標を語っており、幾何学的造形からなる心地良い形の創作実験はこれからも続いていくだろう。
最後に「長年、創作活動を続けてきた中で、伊賀さんの支えになったものは何ですか?」とメールで問いかけると、「なかなか辿り着けない目標。」との返信があり、ストイックな作家性の奥にどこか作品と似た心地良さを感じた。

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同時開催されているフォルクスワーゲン札幌東ショールームの「伊賀信展」は、クロスホテル札幌がプロデュース、クラークギャラリー+SHIFTがキュレーションを担当し、ハナアグラとまちなかアートの協力を得て、10月下旬頃まで続く予定だ。ぜひそちらへも足を運んでほしい。

伊賀信 個展「DOT・STRIPE・CROSS」
会期:2014年9月3日(水)~11月28日(金)
会場:クロスホテル札幌
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画課 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:ハナアグラ、まちなかアート
http://crossmet.jp/sapporo/

Text: Ayumi Yakura
Photos: Yoshisato Komaki

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