スプラウティング・ガーデン ー萌ゆる森ー

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

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「七刀リキズ」上ノ大作、2014年 Photo: © 前澤良彰

川沿いのとある地点で対岸を見上げると、美しい緑の芝が剥げてしまった丘に、深さ60cm、長さ10mもの巨大な十字の溝が現れる。上ノ大作による「七刀リキズ」は、約1ヶ月をかけてこの場で焼き締められた陶作品だ。
急斜面の芝を剥いで雨除けのテントを張り、地表に彫った傷口を粘土で覆った後、その上に組んだ窯で4晩かけて野焼きを行い、最後に窯を壊し去る。なかなかハードなプロセスに思えるが、作家はその成果が目に見えなくなることを望んでいるという。
熱の冷めた傷の周辺には、すでに新たな芝が植え直されている。その一つひとつが芽吹き生長していくにつれ、傷はやがて癒えていくだろう。森の自然治癒力により消えゆく作品を想像すると、会期終盤に再訪する日が待ち遠しい。

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「Trace」川上りえ、2014年 Photo: © 前澤良彰

丘陵の麓から頂上を目指して登る犬の群れは、川上りえによる彫刻作品「Trace」。金属を用いて、幾何学的であったり、抽象的でどこか宇宙を想わせるような構造体を発表してきた作家の作品として、特に具象的に見える本作は、ルーマニア・シビウでの滞在制作中にインスピレーションを得た作品が元になっているという。
ルーマニアでは、経済格差拡大と雇用情勢悪化による犯罪の多発や、野犬が市民を襲うトラブルが社会問題になっているが、本作からは危険よりむしろ平和で解放的な印象を受ける。犬たちにとって芸術の森は、本来あるべき姿で共生していける土地なのだろうか。
鉄の細い線一本一本には特筆すべき生命感が宿っており、まるでこの空間で生身の犬をトレースしたように見える。その一方で、時空を超えた別のどこかを重ね見るような感覚も得られる作品だ。

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「White Mushroom Breeding Project」澁谷俊彦、2014年 Photo: © 澁谷俊彦

澁谷俊彦は、本誌でいち早くご紹介した野外美術館の「ウォーターパレット」が、公開から間も無く複数の海外メディアからも注目を集めているが、園内で保存されている小説家・有島武郎旧邸の庭にて、倒木に無数のキノコ型オブジェを配置した密やかなインスタレーション「White Mushroom Breeding Project」にも目を向けてほしい。
近づいてみると、小さな傘の裏面に塗布された2色の蛍光色が、交互に寄り添い重なることで、それぞれを鮮やかな反射光に染めている。訪れた人は、足元の小さな自然の営みを再発見することを通して、自然と人間の共生・共存というテーマを静かに感じとることができるだろう。

本記事では屋外スペースの一部作品をご紹介したが、屋内スペースである佐藤忠良記念子どもアトリエでは2名の絵画作品が展示されているほか、隣接する関口雄揮記念美術館では、インスタレーションと日本画のコラボレーション作品や、北海道を代表する作家から期待の若手作家まで、様々な彫刻作品も見ることができる。
会期は11月3日まで。北国の植物が生長する森を散策しながら、季節や気象や時刻によって異なる表情を見せる作品の数々を巡り、開園28年を迎えて広がりゆく芸術の森を体感してほしい。

「Sprouting Garden ー萌ゆる森ー」
会期:2014年7月5日(土)〜11月3日(月/祝)
時間:9:00~17:30(9月以降は17:00まで)
会場:札幌芸術の森屋外スペース、札幌芸術の森野外美術館、佐藤忠良記念子どもアトリエ、関口雄揮記念美術館
観覧料:高校生以上900円、中学生以下無料
主催:札幌芸術の森美術館(札幌市芸術文化財団)、関口雄揮記念美術館
後援:北海道、札幌市、札幌市教育委員会
出品作家:會田千夏、阿部典英、伊藤幸子、上ノ大作、柿崎熙、果澄、川上りえ、國松明日香、佐藤あゆみ、澁谷俊彦、下沢敏也、関口雄揮、ダム・ダン・ライ、藤沢レオ、菱野史彦、森迫暁夫、山田良、艾沢詳子
住所:札幌市南区芸術の森2−75
TEL:011-591-0090
http://www.sapporo-art-museum.jp

Text: Ayumi Yakura

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