アイ・ウェイウェイ「エビデンス」

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

今ベルリンで最も話題になっているアーティストは誰だろうか。それは中国人アーティストアイ・ウェイウェイに違いないだろう。ベルリンで展示されることは多くなかった彼だが、ベルリンにある美術館マーティン・グロピウス・バウで大規模な個展が始まった。そんな彼の展示について数多くの新聞やテレビが取り上げ、大きな話題となっている。こうした盛り上がりはメディアに留まらない。彼の展示には僅か一ヶ月で10万人の来場者を越える人々が詰めかけている。これはアイ・ウェイウェイ フィーバーとさえいえるだろう。このように熱狂的な迎え入れられたベルリンでの展覧会について報告したいと思う。

Ai Weiwei
Ai Weiwei, 2012, © Gao Yuan

チケット売り場に長蛇の列となって並ぶ人々。それに続いてチケット売り場に並ぶと、視界に奇妙なものが見えるだろう。来場者の目に映るのは入口を睨む数台の監視カメラ。それは美術館には場違いな物々しい印象を与える。だが、このカメラはアイ・ウェイウェイが大理石で制作した作品「サーベイランス・カメラ」で、形から想像するような機能は何一つ持っていない。このような作品が展示会場入口に置かれた理由は、監視カメラが今回の展示のテーマを象徴するため。本展のタイトル「エビデンス」だが、それは英語で「証拠」を意味し、展覧会が彼に起きた出来事について証言する。その出来事とはアイ・ウェイウェイが現在中国に軟禁されていることだ。

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Very Yao, 2009, 150 Fahrräder, unterschiedliche Größen, © Ai Weiwei

アイ・ウェイウェイは1990年代から「ドクメンタ」や「ヴェネツィア・ビエンナーレ」といった世界的な展覧会に参加してきた。そんな彼の作品の特徴と言えるのは社会問題を取り扱うこと。こうした彼の作品には中国政府を批判するものが多く含まれている。また作品だけでなくインターネットを通じて、社会や中国政府に対する意見を発信してきた。だが彼の発言が影響力を持つにつれて、中国政府は彼に圧力をかけ、インターネット上のページは閉鎖され、2011年には警察に拘留されてしまう。81日間に渡って収監された後、彼はパスポートを取り上げられ、国外に出国することができなくなってしまった。そして今現在も秘密警察の監視下にあると言われている。

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Circle of Animals, 2011, Bronze mit Gold-Plating, 12 Statuen, © Ai Weiwei. Foto © Mathias Völzkei

展覧会の入口で鑑賞者を出迎える大理石製の監視カメラは、彼が経験した収監生活や今も続く秘密警察の監視を象徴するもの。さらに展示会場には彼の体験を直接伝えるものが展示されている。それは会場に置かれた来場者が入ることができる巨大なボックス状のコンテナ。その狭い空間にはベッドと小汚いトイレが置かれている。この作品「81」はアイ・ウェイウェイが監禁された場所を再現したもの。必要最低限のものしか置かれていない空間は劣悪な状況下にあったことを伝える。また室内は監視カメラで監視されており、コンテナの側に置かれたテレビモニターはコンテナ内を映し出す。つまり、ここでは中国政府が彼にかけた圧力を見せることで、その不条理さを批判しているのだ。

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Diaoyu Islands (Diaoyu-Inseln), 2014, Marmor, © Ai Weiwei. Foto © Mathias Völzke

こうしたアイ・ウェイウェイの中国政府への批判は留まることをしらない。作品「4851」では、テレビのモニターが置かれおり、中国語の文字を次々と映し出している。画面に映し出されるのは学生や児童一人一人の名前。2008年中国の四川省で大規模な地震が起きた。そこでは手抜き工事による学校の建物が崩れ落ち、多数の学生や児童が亡くなったという。だが中国政府は正式な死傷者数を発表することはなく、建築物を監督する責任を誤魔化したとさえ言われている。彼は地震で亡くなった人々を記憶に残すために確認を行い、その名前を記録に残しているのだ。これは死者に哀悼するだけでなく責任逃れを行なう政府の批判とも言えるだろう。

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Souvenir from Shanghai (Souvenir aus Shanghai), 2014, Beton- und Ziegelsteinschutt aus Ai Weiweis zerstörtem Atelier in Shanghai in einem Holzrahmen, 380 × 170 × 260 cm, © Ai Weiwei. Foto © Mathias Völzke

自らの不条理な体験を見せる作品や地震の被害を伝える作品が感じさせるのは、多くの問題を抱える中国政府への批判。こうした姿勢は中国からの出国が不可能となり、政府による監視下にある現在でも変わることはない。政府批判を抑え込もうとする圧力にも関わらず、彼は作品制作を続けているのだ。だからこそ人々は彼を表現の自由のために戦うアーティストとして見なしている。実際に多くのメディアも彼をこの枠組みの中で取り上げる。彼の展示や作品に附随するのは中国政府。いまや彼の作品は、それ抜きにして語れないほどになってしまった。だが作品や展示を取り巻く論調とは異なり、展示作品には中国政府を感じさせないものも含まれている。

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Han Dynasty Vases with Auto Paint (Han-Dynastie-Vasen mit Autolack), 2014,
Vasen aus der Han-Dynastie (202 v. Chr. – 220 n. Chr.) und Autolack, © Ai Weiwei. Foto © Mathias Völzke

会場には幾つかの壺が並んでいる。それは作品「ハン・ダイナスティ・ベーシス・ウィズ・オート・ペイント」に使用されている壷で、かつて紀元前200年頃から紀元後200年頃まで中国大陸を支配した漢時代のもの。今から2000年ほど前の歴史的に貴重な壺だが、アイ・ウェイウェイはそれらを現代の工業塗料で塗装している。車に使用される塗料で塗られた壺はメタリックな色に輝き、まるで現代の大量生産の製品のように見えるだろう。形にそぐわない色は壷が本来持つ歴史的な価値を覆い隠してしまっている。壺自体の形は変わらなくとも、見かけによって印象は大きく変わってしまったのだ。このような作品から中国政府を感じさせる要素を見つけ出すのは簡単ではない。

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Stools (Hocker), 2014, 6000 hölzerne Hocker aus der Qing Dynastie (1644-1911), unterschiedliche Größen, © Ai Weiwei

マーティン・グロピウス・バウの建物の吹き抜けに設置された作品「スツール」からも同様の印象を受けるだろう。天窓から陽光が差し込む美しい吹抜けには無数のシンプルな椅子が置かれている。吹き抜けに所狭しと置かれた椅子の数は6000脚。それらはいずれも丸い座面を持ち、3本の脚が伸びている。これらはほとんど同じもののように見えるだろう。だが実際には明時代から清時代までのものが集められており、見かけとは異なり古いものもあれば新しいものもある。外見とは異なり個々の椅子はそれぞれの歴史を持つ。このような作品は、ものの見方について気付かせる。外見や一面的な情報では物事を判断することができないことを。

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Stools (Hocker), 2014, 6000 hölzerne Hocker aus der Qing Dynastie (1644-1911), unterschiedliche Größen, © Ai Weiwei

こうした物事への見方を考える上で忘れてはいけない作品がある。それを感じさせるのは写真作品「スタディ・オブ・パースペクティブ」。写真に写されたのは世界の象徴的な建物や場所と、それに向けて立てられた中指。中指を立てるのは挑発の意味を持つが、それを国や文化のシンボルに対して行なうのは支配への抵抗と言える。だが対象となるのはドイツの国会議事堂や日本の靖国神社などであり、中国政府ではない。これらは国や文化の中で力が集まる場所なのだ。彼がこの作品で見せているのは、中国政府がそうであるように、それらが果たして常に正しいのだろうかという疑い。つまり、一つの国や文化で支配的なものに対して疑いの目を向けるのだ。

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Ai Weiwei zeichnend beim Alten Sommerpalast (Yuan Ming Yuan), Beijing, 1977, © Ai Weiwei

先に説明したように中国政府とアイ・ウェイウェイという構図が展覧会を取り巻く。現在の国際政治の状況では中国に注目が集まっており、彼の展示はこうした国際情勢と共に取り上げられる。そればかりか表現の自由を抑圧する中国政府と戦うアーティストという枠組が好まれ、展示を紹介する常套句にさえなっている。今やその構図はメディアや展覧会では支配的な論調となり、鑑賞者に強いられてしまっているのだ。だがアイ・ウェイウェイは一面的となった切り口を望んでいるだろうか。そして人々が支配的となった情報をただ鵜呑みにすることを望んでいるだろうか。いやそうではないはずだ。彼の作品と向き合う際に必要なのは、彼が何と闘っているのかを理解することである。展示を見る上で、それを絶対に忘れてはならない。

Ai Weiwei “Evidence”
会期:2014年4月3日~7月7日
時間:10:00~20:00
会場:Martin Gropius Bau
住所:Niederkirchnerstraße 7, 10963 Berlin
TEL:+49 30 254 86 0
http://www.berlinerfestspiele.de

Text: Kiyohide Hayashi

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