トラフ建築設計事務所

PEOPLEText: Noriko Yamakoshi

揺るがない軸足で、しなやかに越境し続ける建築ユニット 

2004年、鈴野浩一(すずの こういち)と禿真哉(かむろ しんや)によって設立されたトラフ建築設計事務所。建築設計・空間デザインはもちろん、展示会場構成から家具、プロダクト、インスタレーションから舞台美術に至るまで、建築的発想を基盤に様々なジャンルの境界線を軽やかに越え、そして繋いでいく作品を数々発表してきている。
2012年2月、第2回目の開催となったアートフェア「TOKYO FRONTLINE 2012」では、日本のコンテンポラリージュエリー市場とアーティストを支えてきた「ギャラリードゥポワソン」とのコラボレーション作品として「gold wedding ring」を発表。揺るがない軸足はそのままに、しなやかにグランドを越境し続けているトラフ建築設計事務所のお二人にお話を伺った。

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Photo: YOSHIAKI TSUTSUI

ご出身はそれぞれ神奈川と島根、大学も大学院も勤務先も違ったお二人ですが、どのような経緯でトラフを設立されたのでしょうか?

禿は僕が卒業後に働いていたシーラカンスK&H建築事務所で同期だった友人の後輩でした。紹介されて飲みに行ったりはしましたが、その後は建築家達が集まるオープンハウス等で偶然会ったりする程度でした。数年後に「クラスカ」の仕事が来たとき、当時他にもいろいろなプロジェクトを手伝っていた僕はひとりでそれだけに専念できる状況では無かった事もあって、一緒に進めてくれる人を探していたんですね。で、本当に偶然、禿と縁があって。
彼との最初の共同作業は本当にスムーズに、またとても面白く進める事ができ、そのプロジェクトがきっかけで更にクラスカの屋上リノベーションの依頼を頂くことになりました。折角なので是非また一緒にやろうかということで共につくり上げたのですが、その後も仕事が仕事を呼び、気づけばあっという間に8年経っていたというか。
二人で一緒になって「はじめよう」と言って始めた訳では全く無く、ただ本当に自然な流れでしたね。

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テンプレート イン クラスカ, 2004 Photo: DAICI ANO

そのクラスカでのお仕事をされる以前と後では仕事への発想に少し変化があり、このプロジェクトがある種の転機になったと伺ったのですが。

クラスカのプロジェクトは一部屋が本当に小さなスペースでしたので、モノの与える影響がとても大きかったんですね。必ず部屋に入れなければならないアイテムがあるという、「モノありきの」状況の中で、逆にまずはモノを全て出した状態、バラした状態でその収め先を計画していこう、という方向になっていきました。
結果として出来た壁面は家具でもあり、建築でもあり、プロダクトでもある、その中間のような作品になりました。モノと建築空間との新たな関係の始まりのきっかけになったプロジェクトでしたね。

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NIKE 1LOVE, 2007 Photo: DAICI ANO

作品に必要な機能性とお二人らしい意匠性とのバランスはどのようにとられたりするのでしょうか?また常に立ち戻る尺度というかルールのようなものがあったら教えて下さい。

自分たちは建築家なので、まずは条件を整理する事が一番最初にすることですね。クライアントからの要望もその条件のひとつですが、建築であればそれ以上に敷地が持ってる条件の方が強かったりしますから、それらを読み取っていく作業がまず一番大きいですね。その後、問題点や、矛盾点、関係性などが出てくるようになってようやくその案件の本質的な「問い」のようなものが見えてくる。そしてやっとそこからデザインを始めていく事が可能になります。
それによって「これをこういう風に解決するから、こういう形にしよう」という説得力をもった提案をしていけますし、基本のその「条件」をきちんとクリアしていればクライアント的にも納得して貰えると思うのです。その上で自分達が見たいな、とか欲しいなと思うかどうかというフィルターを通していくと、そんなに自分達の主張がなくてもおのずとそれが後からにじみ出てくるし、多分それぐらいが丁度良いなと思いますね。

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GREGORY TOKYO STORE, 2008 Photo: DAICI ANO

自分たちがどうしても創りたい形やデザインだけが先行することはあまりありません。なので単純に「綺麗な椅子を作ってください」と言われてしまうと逆に困ってしまう場合もあるのですが、そんな時は製作工場に行ってみたりする「紐解く」プロセスのなかで、例えば「テラスだけで使える椅子」というテーマで建築でいう敷地みたいなものを想定してみます。このように特定の場所でしか使えないという条件を与えてみると絞れてきたりするので、例え自由に製作出来る環境であっても敢えてそこに条件というか縛りを与えて考えていますね。

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回転体, 2004 Photo: Nobuaki Nakagawa

建築はクライアントのお金を使って形にする仕事ですし、またクライアントもいくら自身の敷地だからとはいえ、その街や風景に対する影響というものを全く無視する事は出来ないので、そういった正統性や必然性を踏まえて提案します。また建築は何十年も残るものですので、使い勝手を作り手から押し付けるスタイルではなく、なるべく余白を残したいというか、使う人が自分なりの楽しみを見つけ出せるような「完成品にならない」という事を常に念頭に作るよう心がけてます。
それは建築以外の作品にも反映していて、例えば空間を意識してつくった「空気の器」にしても、もう出来上がった状態で「こういう形ですからこれを見て下さい」というプロダクトでは無くて、自分で広げて好きな高さや大きさを形作る体験をしてもらうことがこのプロダクトのとても大事な要素のひとつなっています。

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空気の器, 2010 Photo: Fuminari Yoshitsugu

素材から受けるインスピレーションは大きいですか?

かなり大きいですね。素材にはとても興味があって、常に素材サンプルはオフィスの棚に沢山あります。先ほど条件を手がかりに問題を解決していくという方法をお話しましたが、そういう進め方もある一方で素材だけを眺めてみて、これだけでも面白いものや空間を作れないかなと発想を広げていくようなアプローチもします。

クラスカやフライターグの店舗、NIKEオフィスなど、リノベーション案件の作品も多く手がけていらっしゃいますが、先ほどの「問題の逆アプローチ」や「余白を残す」という考え方にも表れているかもしれない「視点を変える」という手法はこういったリノベーションプロジェクトでも理にかなった考え方だと感じますか?

そうですね。いま本当にモノも溢れているし、そういう中ですこしでも視点を変える発想ができたらなとは常に思っています。様々な縛りや条件があるなかでの作業も多いので、それが逆にやりがいでもありますね。

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FREITAG Store Tokyo, 2011 Photo: Sebastian Mayer

例えばフライターグの店内の梁の部分に藁や荷札などが残っていますが、実は元々建物にあったものを生かしたと伺いました。

そうです。そういった選択はとても大きいですね。作業中、変えて欲しくない場所には「キープ」というシールを貼ったりしていかないと、どんどんキレイにされていってしまったりするのです(笑)。明確な視点を持って、リノベートする所と残すところをきちんと考える、古い部分とのバランスを考慮することはとても大切です。だからペンキを塗る場合でも、必ずしも隠すとかいう目的ではなかったりもします。

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ガリバーテーブル, 2011 Photo: Fuminari Yoshitsugu

構造家の方との共同製作作品などはありますか?

ガリバーテーブルなどは構造家の方と協働させて頂きました。テーブルのプロポーションを保ったまま巨大化させることは決して簡単ではありませんでした。無理に部材を減らすと、その分構造材が太くなって部材単価も上がる、かといって部材が増えすぎるのも組み立てに手間がかかる、そのバランス取りに注意を払って進めました。

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コロロデスク / コロロスツール, 2012 Photo: Akihiro Ito

最近手がけられた「コロロデスク / コロロスツール」は、プロダクトでもあり、アート作品のようでもあり…。

むしろ、家のようでもあり、インテリアでもありといった作品ですね。自分の子供に個室を与える代わりにリビングに置いて子供がまるで自分の部屋のようにデスク空間を創れたり、籠れたりする。そういう発想から出来あがった作品です。
クライアントの伊千呂さんが一枚からでも特色でポリ板を作られていて、その色を活かしてデザインした側面もありますね。

シンプルなのですが、内側にあるその鮮やかな色空間にちょっと頭を入れただけで本当に世界はワッと変わるのです。それは、最小単位の空間になるなと考えました。

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TOKYO FRONTLINE 2012 ギャラリードゥポワソン ブース

2月の「TOKYO FRONTLINE 2012」では、出展ギャラリーの一つである「ギャラリー ドゥ ポワソン」とのコラボレーションリングを発表されました。このプロジェクトのいきさつなどをお聞かせ下さい。

僕がオーストラリアのメルボルンにある建築事務所で働いていた時、「gallery funaki」という、とても素敵なコンテンポラリージュエリーを扱うギャラリーのオーナーの方に、日本にも素敵なギャラリーがあるよと紹介されたのが「ギャラリー ドゥ ポワソン」でした。そんな経緯でギャラリーディレクターの森さんと出会って。
元々「gallery funaki」が扱う作品を目にした時には、「こんなに“発想そのもの”を形にしたジュエリーがあるんだ!」という驚きの発見が沢山あって、とても興味を持っていたんですね。日本ではジュエリーって金とかダイヤモンドなどマテリアルそのものの価値でしか語られないのですが、「gallery funaki」で見た作品は例えば紙で出来た作品とかがとても評価され、高く売られていたりしている。とても面白い世界だなと。

今回、森さんから「ウェディングリング」というお題を与えられて、実際、ギャラリーに伺い、扱われている他のウェディングリングなんかも見せて頂きながらその場でスケッチを描いてデザインを決めていきました。
一回の打ち合わせで決めましたね。ずっと着用するものだし、やはり金か銀素材でシンプルがいいなという方向になってきたときに、金と銀両方を備えたリングはどうだろう、という発想が出てきて。

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gold wedding ring

最初はシルバーなのですが、使うにつれ下地の金が現れてきます。建築や内装を手がける時にも、使う人の目線や使ううちに段々良くなっていく余白を念頭に設計しますが、この指輪も経年変化で段々傷がついてしまう事が決して嫌なことではなく、むしろ楽しみになっていくような作品にしたかったのです。
それは2人で共有している時間をも感じられるというか。よく着けるひとは早く金になっていったりだとか、外したままの人はずっとシルバーのままだったりとか(笑)面白いなあ、と思って。

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gold wedding ring

森さんからは、まず金の上に銀メッキなんてことは普通しないと言われたのですが、そこが面白いかなと。この微妙に2重の色が見えてくる状態を人工的につくろうと思ってもなかなか難しいのです。でも使用する過程を利用したこの方法なら、グラデーションというか、「2つ存在する」ということが簡単に創れるので面白いなと思ったのです。
リングのデザインは2種類あって、変化の仕方も角のある方はエッジの方から傷ついていって、横とか表面は多分長い間シルバーのままじゃないかと思います。
今回、サイズ感に関しても、他のコンテンポラリージュエリーとのバランスの中でどういう主張をしていったらいいのかという視点で森さんにアドバイスを仰ぎました。森さんが知らないこととかスタイルってあまり無いと思ったので、「彼が面白いと思ってくれるデザイン」という括りで作業を進めた部分もあったと思いますね。

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チェルフィッチュ「フリータイム」, 2008 Photo: Toru Yokota

アート展示会などの展示会場構成を担当されることも多いようですが、「期間限定」という括りに魅力を感じられることはありますか?

面白いですよね。建築の場合は、長い期間残ることを前提としているので、最初はそんなちょっとの間でなくなってしまうなんてはかない、空しいという受け止め方の方が強かった。ただ「パパ・タラフマラ」や演劇ユニット「チェルフィッチュ」の舞台美術を担当をやらせていただいたことでその考えが変わりました。
実は建築だって例え「10年20年100年残るものを」と願って作ったものでも、なんらかの理由で取り壊されてしまった後は、「あれ、ここに何があったけ?」と人の記憶に全く残らないこともあるなと思ったのです。演劇やパフォーマンスでは、最初から期間限定である事が分っていながら、例えばたった一日だけの為に半年かけて稽古をやっている。色々難しい中でアルバイトをしながら夜遅く集まって、なんでそんなに頑張れるんだろうって最初は思いました。
岡田さん(「チェルフィッチュ」主宰の岡田利規氏)の指示も僕らからすると何が違うのか全くわからない程細かくて(笑)、延々と同じシーンを繰り返しては役者さん達はその場で書き換えられる台本をまた覚え直していったり。
でも公演までの体験を通して「その一日だけでも記憶に残っていくもの」に向かうという、それまで自分の中には無かった概念に出会った気がします。

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パパ・タラフマラ 「パンク・ドンキホーテ」, 2009 Photo: DAICI ANO

先日、関連したワークショップにも参加されていますね。

あれはとても良い体験でした。印象に残っているのは例えば手に持っているペンを地面において、それを拾い上げるのですが、それをゆっくりゆっくり、例えば5分かけてやって下さいと言われるのです。5分といわず時間をかければかけるほど良いといったような。
足を前にだして拾って足を戻す。それだけの事なのですが、本当にゆっくりなので、足もプルプルしてくるのです(笑)そのうちに自分がどうやって普段手を動かしてきたのかもわからなくなったり。始めは僕らのトークショウを終えてからのワークショップ、という予定だったのですが、まずは小池さん(「パパ・タラフマラ」主宰の小池博史氏)のワークショップを受けてからその感想を交えて話したかったので、順番を変えてもらっての体験でした。
どこか無にならないとできない体験で、「よく考えろ」とずっといわれてきたような自分にとって「考えるな」と言われたのは本当に新鮮でしたね。考えない、あるいは考えすぎずにただ感じるという“五感”をないがしろにしてきていたのかもしれないとも考えました。

今後のご予定など教えて下さい。

まずはシリーズものとしてこれまで「かみの道具」として発表してきた「空気の器」と「tapehook」という2つのプロダクトシリーズの第3弾を、今年6月東京ビックサイトで開催される国際見本市インテリアライフスタイルでの「シャシンシコウ展」にて発表する予定です。

また4月には「トラフの小さな都市計画」(平凡社)という絵本が出版される予定です。この本は、今ある街をほんのすこし違う目線で見てみるだけでそれまでの世界がガラリと変わるかも、という「違う見方の提案」みたいなことをしたいと思って制作しました。
きっと100人いれば100通りの見方があって、地図を持って街を歩くだけでもかなり見え方が変わってくると思うのですが、例えばそれが隠されている宝物を示した地図などであれば、見慣れた街が急に新鮮な遊び場に見えてきませんか、という提案だったり。
植物の分布図がしるされた地図なら、あそこの公園に行くと木の実があるので取って食べれるよ、となってよし、あそこに行ってみようだとか。

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付録として付いてくる特別な眼鏡でこの本の世界を眺めてもらうと、フワフワと浮いた感じになったりしますが、これには提案している「違った視点」を体感してもらう意図もあったりします。
現代の我々にとって都市って基本与えられたものですが、自分の家の中のインテリアをちょっと変えるだけではなく、街に違った視点をすこし付加するだけでその街との関わり方も随分変わっていけると思うのです。
例えば南洋堂(建築専門書店)さんの案件ではお店の外壁に本棚を設計しました。雨の日には片付けることもできる簡単な仕組みですが、こういう壁が外に向かって街に面してあることで、立ち止まって本を手にする人たちも多く出てくる。そしてこの壁は共有のものになり、一気に公共の一部になって都市に関わっていけると思うのです。

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NANYODO SHELF, 2011  Photo: Fuminari Yoshitsugu

ちなみに「トラフの小さな都市計画」最後のページに載っている道は本当に事務所のすぐそばにある道です。不動前と武蔵小山をつなぐ元々あった線路が地下化して、その上は遊歩道に変わりました。でも折角のその遊歩道もごく一般的な使われ方しかしていなかった。そこにトラフが新しい提案を試みた絵なのです。
ガリバーテーブルがあったり、歩道の手すりに「デッキ」が付いていたり。折角線路がなくなって皆背中を向ける必要がなくなったので、家の壁には大きな窓を作ってみたり、プロジェクターをあててそこでみんなで上映会をしてみたり。またフライターグの店にも活用されている、壁窓が外にバタンと開くドライブスルー形式の仕組みもここにも組み込んだり。
その土地に住む人や訪れる人々がもっと個々に都市に関わっていける、コミュニケーションしていけるような提案を、これからもすこしずつ続けていけたらと考えています。

※前述のギャラリードゥポワソンとのコラボレーションリングは、3月30日より開催予定の「アートフェア東京2012」でも展示される。
また石巻工房と共同製作した「デッキ」は「スカイデッキ」として生産・販売が決定、3月9日より31日までハーマンミラーストア等で展示・販売されています。

株式会社トラフ建築設計事務所
住所:東京都品川区小山 1-9-2-2F
TEL:03-5498-7156
torafu@torafu.com
http://www.torafu.com

Text: Noriko Yamakoshi

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