第54回 ヴェネツィア・ビエンナーレ

HAPPENINGText: Toshiaki Hozumi

各国は、例年のように単に国を代表するだけではなく、各国の特色や課題を色濃く表現する作家を選出してきて、統一感があった。

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日本館(束芋)

日本も、戦後ニッポンの生活感をもりこみ、日本のアニメ文化のガラパゴス的な深化を感じさせる束芋の「てれこスープ」(あべこべとテレスコープを組み合わせた造語)を出品。建物の構造を生かしながら曲面スクリーンと鏡を使い、隅々まで神経の行き渡ったつくりこみによって、万華鏡のような不思議な視覚が体験できる強いインスタレーションを仕立て上げ、多くの観覧者の注目をひきつけていた。

Guillermo Caizadillaアメリカ館(Jennifer Allora)
アメリカ館(Guillermo Caizadilla)

とりわけ、国が抱える問題に光をあて最もユーモラスに応えたのはアメリカ館。ジェニファー・アローラ&ギレルモ・カルサディーラは、「栄光」を意味する「Gloria」(女性の名前でもある)をタイトルにしつつ、軍事力、経済力、スポーツ、グローバリズム、宗教、民主主義というアメリカの栄光が、ユーモラスに脱臼されるよう仕組まれた作品を展示した。転倒した戦車のキャタピラーにトレッドミルが設置され、その上をオリンピック選手が走るパフォーマンス。日焼けマシーンに横たわり黒人のように真っ黒になっている自由の女神。木でできた航空機のビジネスクラスシートの上で平均台のような美しい体操を繰り広げるパフォーマンスなど。ATM装置の上に荘厳なパイプオルガンが接続され、観客が装置をつかうと音楽が奏でられるような作品もある。いずれも、アメリカの威容を示すことへの含み笑いが響いてくる。

lv-ph7-1.JPGドイツ館(Christoph Schilingensief)
ドイツ館(Christoph Schilingensief)

国別パビリオンの最高賞・金の獅子賞に選出されたのがドイツ館である。昨年、ビエンナーレ代表に選出されてからおしくも逝去した映像作家クリストフ・シュリンゲンジーフの戯曲用舞台装置の構想に忠実に基づき、館内を教会に見立てた大がかりなインスタレーションを仕上げていた。このカルト的人気をもつ映像作家は、ナチス時代を思わせる荘厳なドイツ館の建物を、完全に異端の教会に仕上げた。タイトルは「恐怖の教会VS心中の化け物」。ナチスとカルトのどちらが恐怖でどちらが化け物なのであろうか。

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