タリン・サイモン展「虐げられた人々」

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

今も記憶に新しい「アメリカ同時多発テロ事件(9・11テロ)」から10年。節目となる2011年にベルリンでは多数の9・11テロに関連する展覧会が開催されている。多くの展覧会が直接「テロ」や「戦争」や「暴力」を扱い、テロに傷ついた人々の痛ましい姿や暴力によって荒廃する社会を表すなかで、ノイエ・ナショナルギャラリーで開催されたタリン・サイモンの個展は全く別の観点を写し出していた。そこでは「テロ」などを直接扱わなかったにも関わらず、9・11テロ以降に向き合うべきものを考えさせる印象深い展示となっていた。

タリン・サイモン「虐げられた人々」
© Taryn Simon, Courtesy of Gagosian Gallery

モダニズム建築の巨匠であるミース・ファン・デル・ローエの代表作の一つであるノイエ・ナショナルギャラリー。ガラスで覆われた四角形の広大な空間には外部へと拡張するような圧倒的な展示空間が広がる。しかしタリン・サイモンの新作「虐げられた人々」(原題:A Living Man Declared Dead and Other Chapters)は、20世紀の巨匠の迫力ある建築空間に負けることなく優雅にそして力強く作品を展開していた。

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Photo: David von Becker

外光が差し込む美しい展示室には巨大な漆黒のキャビネットが並び、その中に写真やテキストが規則性に従って配置され、白地を背景に写真とテキストが博物館での展示のように整然と並ぶ。

どのキャビネットも同じ構成を取り、3つの部分から構成された作品が計18点展示されている。作品の左翼には白地を背景としたポートレート写真が配されており、写されている人々の顔はおろか服装まで異なるにも関わらず、いずれの人物も個性が掻き消されて見える。右翼も同様に写真で構成されているが、写されているものは書類や発掘されたもの、そして風景など異なる対象となっており、その多くは雄弁にならぬように客観的に撮影された印象を与えている。

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Photo: David von Becker

そして中央部には展示物の背景となる物語や説明が書き記されており、左翼部のポートレート写真の説明として撮影された人物の生年月日や現住地そして職業を記し、その一方で右翼部の説明として写真の対象となるものの背景を記述しているため、まさに博物館の展示キャプションそのものを見ている感覚を生み出す。

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