ガゴシアン・ギャラリー・ローマ

PLACEText: Mamiko Kawakami

この冬のローマを飾る一大アートイベントと言えば、ガゴシアン・ギャラリーのオープンがある。ラリー・ガゴシアンは、アメリカ人、アルメニア人ハーフのアート・ビジネスマンそしてアートに対する鋭い洞察力から、またの名をシャーク(鮫)として知られている。彼がローマのチェントロ(中心街)に新ギャラリーをオープンした。ギャラリーの位置するフランチェスコ・クリスピ通りは、「チッタ・エテルナ~永遠の都」(ローマの通称)の中心部にあたる、スペイン坂とヴェネト通り、そしてバーベリーニ広場のちょうど中間に位置する雰囲気ある小さな小道。

1921年に建てられ、以前は銀行として使われていたビルに750m2のそのギャラリーはある。中でも目を引くのは、縦23メートル、横13メートル、天井の高さは6メートルある卵型ギャラリー。吸い込まれるような白で統一されたその空間に、来場者は思わず特別な空気を感じるだろう。

ガゴシアン・ギャラリー・ローマ

このギャラリーのオープンに合わせて、サイ・トゥオンブリーによる「Three Notes from Salalah~サラーラからの3つの言葉」(2.5m x 3.5m、2005‐2007年作)が世界初公開される。サイ・トゥオンブリーは1928年生まれ、50年代からローマ在住。2001年には第42回ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞。トゥオンブリーはガゴシアンとは強い関係があり、また2008年後半にはテートモダン美術館で彼の作品が特別展示される。

ガゴシアン・ギャラリー・ローマ

世界に全部で7ヶ所(ニューヨーク3、ロサンゼルス1、ロンドン2)あるガゴシアン・ギャラリーも、ローマがヨーロッパ大陸では初。1979年にガゴシアンが最初のギャラリーをオープンし、世界の現代アートギャラリーの中心的存在になったのは一昔前にも感じる。このプロジェクトはローマ出身の建築家フィロウツ・ガルドによってデザインされ、イギリス建築事務所クルソ・セント・ジョンによって実現された。『場所を見つけるのに7ヶ月、デザイン構想に7ヶ月、プロジェクト実現に7ヶ月掛かった。』とガルドは、プロジェクトが着実に進められたと自負する。そして彼らが最も重要そして難関としたタスク「斬新なデザインと歴史とが上手くその空間で調和する事」を実現した。

ガゴシアン・ギャラリー・ローマ

ガゴシアン・ギャラリーの歴史は、過去29年間に多くのアーティスト達の作品で色とりどりに飾られた。そのアーティストの中には、バスキア、ピカソ、アンディ・ウォーホルの他、アリギエロ・ボエッティ、セシリー・ブラウン、フランチェスコ・クレメンテ、ウォルター・デ・マリア、アルベルト・ジャコメッティ、リチャード・ハミルトン、ダミアン・ハースト、ウィレム・デ・クーニング、ジェフ・クーンズ、ロイ・リキテンスタイン、マリオ・メルツ、ピーノ・パスカーリ、エド・ルシェ、ジェニー・サヴィル、リチャード・セラ、デイヴィッド・スミス、フィリップ・ターフェ、ロバート・テリアン、ピオトル・ウクランスキー、フランチェスコ・ヴェッツォーリ、クリストファ-・ウールがその長いリストのほんの一部として代表される。

ギャラリーの窓口となる人物は、オーナーのガゴシアンに代わりギャラリーのディレクター、ペピ・マルケッティ・フランキ。彼女はこのローマでの新ギャラリーのオープンを “ニューヨークから旧大陸ヨーロッパへの重要なステップ” と見ている。The Eternal City(永遠の都)ローマに、The City(ニューヨーク)の一部を持ち込む。『私たちは、今日グローバル・アートマーケットに暮らしている。それを常に意識する事を忘れず、できる限りアートの質を守って行きたい。ただ表面的なものとして発達させるのではなく。』とフランキはギャラリーの方向性を語る。

アートと経済のこの新しい波は、ローマで熱い歓迎を受けている。この新プロジェクトがローマのアートカルチャーの一部となって欲しいとガゴシアンは強く願っている。ローマの街をよく知るアート関係者であれば、そんなガゴシアンのチャレンジはすぐに理解できる。イタリアで近代アートと言えば、まずミラノとヴェネツィアを誰もが思うが、ローマはこのニュートレンドに完全に出遅れてしまっている。

『ローマは純粋に独創性が表現される場所であったことはないだろう。むしろ、アートと権力が交わる場所といえる。アート愛好者が訪れる場所の中で最も堕落した場所。その理由は、権力と富が、アートの中で最も素晴らしいアートを表現することを可能にするということを知らしめられるからだ。』とイギリスのガーディアン紙は、ローマのアートカルチャーに対する酷評の鍵となる要素を指摘する。ガゴシアンのビジョンは、少し異なる。2000年以上の歴史を誇るローマの独創性には多くのアーティストが魅了され、ローマにギャラリーをオープンするのは、コンテンポラリーアートシーンとは関係なく、この素晴らしい都市ローマを褒めたたえる為だとフランキは説明する。

権力と富が再び出会い、この注目される新ギャラリープロジェクトを進める。そのプロジェクトの意味は、ローマを褒めたたえると一言で言うよりもっと複雑で、単に利益をもたらすという事よりももっと興味深いものであると考えられる。この様なプロジェクトの賭けにローマは乗ってみてもいい。これを機会に、この首都のアートの底力を揺さぶり起こすことになればローマの一人として嬉しい限りだ。

Gagosian Gallery Rome
時間:10:00〜18:00(日・月曜日休廊)
住所:16 Via Francesco Crispi, 00187 Roma
TEL:+39 (0)6 4208 6498
https://www.gagosian.com

Text: Mamiko Kawakami
Photos: Courtesy of Gagosian Gallery

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