タリン・サイモン展「虐げられた人々」

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

このような博物館と見まがう作品が見せているものは、世界各地の様々な出来事であり、それらは非常に多岐にわたっている。取り上げられているのは、北朝鮮の韓国人拉致問題、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での大量虐殺、アフリカでのアルビノ(遺伝性の皮膚や身体の白化症状)の現状といった世に知られている出来事だけでなく、サダム・フセインの息子ウダイの影武者の人生、そしてウクライナでの孤児院の現状、かつてスペインであった同性愛者の逮捕など差別問題、そしてインドで起きた住民票に死亡と誤記入され今も「死者」として生きる人物の話など、世にあまり知られていないものも含む計18本の現実の出来事である。

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© Taryn Simon, Courtesy of Gagosian Gallery

これらの実話を客観的に取り扱うタリン・サイモンの作品だが、新聞や雑誌などのドキュメンタリーとの間に決定的に違いを生み出しているのは彼女が血脈を扱うところにあるであろう。例えば北朝鮮の韓国人拉致問題を扱う作品では、家族の一人一人がポートレート写真でキャビネット内に配置されているが、1977年に拉致された被害者の写真が入るべきところには真っ白な写真が置かれ家族の不在が強調される。またアフリカでのアルビノを扱った作品では、家族のポートレートには幾人かのアルビノの症状を持った人物が登場し、遺伝に翻弄される人間の運命が浮かび上がっている。

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© Taryn Simon, Courtesy of Gagosian Gallery

そもそも彼女が様々な出来事を調査し作品に表すことは、2007年の「An American Index of the Hidden and Unfamiliar」というアメリカの知られていない暗部を暴く連作にも見られる。そこでは厳密な調査に基づきアメリカにある当事者が進んで公開しないような存在を見つけ出し、長い交渉を経て作品に登場させている。

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