飯沼英樹

PEOPLEText: Yuko Miyakoshi

3.11以降、制作に変化はありましたか?

僕は3月15日に家族と大阪の親戚の家に避難したのですが、東京を逃げた罪悪感でいっぱいになりました。その時、第2次世界大戦でパリから日本に帰ってきた岡本太郎や藤田嗣治、そして反対にパリに残った長谷川潔やパブロ・ピカソのことを考えていました。長谷川潔は収容所に入れられても最後までパリに残って版画を続けました。パブロ・ピカソは権力に対して真っ向から抗議して、描き続けることこそが芸術だと直感したのではないかと思いました。そう考えてから、僕も東京に帰って作品を作り続けようと決意しました。

福島の原発問題で真実を隠した報道による国家の危険性が指摘されたりしましたよね。アーティストが国家権力に対して個人の表現の自由をどう考えていくのか僕自身も今考えていることです。3.11以降は、今までと変わらず制作を続ける力強さを求められるというのもある一方で、その変わらないことに対する罪悪感みたいなものもあります。

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「Baden-baden 」H90cm (2003)

ヨーロッパでの活動を経て、現在日本を制作の場所に選ばれたのはなぜですか?

5年間いろいろな国のアトリエを渡り歩いてきてたのですが、まず生活基盤、ベースをしっかりさせよう、という思いで日本に帰ってきました。住む家、アトリエもそうだし。外国に行って目新しいものから受けるインスピレーションもあるのですが、メンタリティーとか歴史や文化をふまえての会話というのは、こちらも想像しながらになるし、深いところまで理解しようとすると時間がかかりますからね。デンマークの美大のワークショップでサイモン・スターリング(現代美術家)に会ったんですが、彼に「君にはオリジナル・ランゲージが無いね」と言われたんです。英語もフランス語も話せる気になっていたのですが、日本語で色々考えていく過程というのは、もっと味わったり、深めていけますよね。自分のコンセプトも日本語が一番ダイレクトに伝わると思います。しっかり日本語で考えたコンセプトを翻訳し世界に対峙していこうと考えています。

好きなアーティストや影響を受けたアーティストを教えてください。

ドイツ人のゲオルグ・バゼリッツというアーティストは、ヨーロッパで色々な作品を見てきた中で、頭の片隅にずっとひっかかっていました。なぜあんなに荒々しいのに、完成度が高いのだろうと。このゲオルグ・バゼリッツを調べていくうちに、美術史の中で「非技術」みたいな、きれいに仕上げない美術というものがあるということを知りました。例えばゴッホとゴーギャンがいて、ゴッホを精神障害者だと見ると――もちろんゴッホはそんなに異常ではなかったと思いますが―― その精神障害者を翻訳して表現したのがゴーギャンなのではないかと思っていて、そのゴーギャンの描いたものがナビ派からブリュッケに伝わり、抽象的に人物を描くような動きがあった。その後にコペンハーゲン、アムステルダム、ブリュッセルで起きたコブラという芸術運動があって、その一派が人間性の回復を求めるようなブラッシュストロークを使って表現した。その後にジャン・デビュッフェがいて、彼は人間の無意識の部分や子どもらしさを翻訳して描いたアーティストだと思っているのですが、そういった流れの中にバゼリッツがいたのです。彼も精神障害者とか子どもの絵を集めたりしていて、今お話したような流れをくんでいたから、荒々しい表現ができたと思います。自分が美術史の中でどこに属するのか、どこに居ようとしているのか、自分なりに流れを意識した上で、荒削りの部分と逆にメイクアップのようにきれいに仕上げていく部分とを共存させたいなと思っています。

女性性の追求というテーマは今後も続いて行きますか?また、新たなテーマはありますか?

女性性の追求は今後も続いて行きますね。男女間の惹かれあう遺伝子と動物的本能の作品化とか。写真、ファッション、デザイン、ストリートやポップカルチャーとの共犯作品などを考え続けています。

Text: Yuko Miyakoshi

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