医学と芸術展:生命と愛の未来を探る ― ダ・ヴィンチ、応挙、ダミアン・ハースト

HAPPENINGText: Alicia Tan

「芸術こそ至上である!それは生きることを可能ならしめる偉大なもの。生への偉大な誘惑者、生の大きな刺激である。」とはニーチェの言葉。それと同じ感情を、医学と芸術という2つの相容れないエリアが出会い、発展していく場所として人間の身体に反映しているのが、森美術館で行われている「医学と芸術展」だ。

Medicine and Art
“Medicine and Art: Imagining a Future for Life and Love”. Photo: Watanabe Osamu. Photo Courtesy: Mori Art Museum

ロンドンのウエルカム財団のコレクションから150点程の貴重な医学資料や歴史的な現代美術品を集めた展覧会場は、ユニークな雰囲気に包まれ、見るものは自らを観察し究明することで、科学や美の始まりを追求していく。

レオナルド・ダ・ヴィンチのファンにとって朗報は、英国ロイヤルコレクションのダ・ヴィンチ作解剖図3点の展示だろう。その内2つの解剖図は日本初公開となった。

Medicine and Art
Leonardo da Vinci Two Studies of a Cranium. 1489. Pen and ink, over traces of black chalk 18.8×13.4 cm. ROYAL COLLECTION ©2009 HER MAJESTY QUEEN ELIZABETH II

展覧会は、「身体の発見」「病と死との戦い」「永遠の生と愛に向かって」の3部構成。私たちの身体へと侵入する医療との関係性や、さらに私たちがどうやって医学により癒されるかを説明する、医療器具やイラスト、日本画や現代インスタレーションなどを参考にし、過去、現在、未来のその関わりを探っている。

Medicine and Art
Jacques-Fabien Gautier d’Agoty Dissection of a Pregnant Female Figure. Lateral View. 1764-65. Oil on canvas 193×53.5 cm. Wellcome Library

展示会場へ入ると、まず迎えるのは ジャック・ファビアン・ゴーティエ ・ダゴティによる2つのペインティング作品。今にして思えば、何とも衝撃的な展覧会の序章である。ダゴディの解剖された女性から芸術と医学の融合が全て丸見えとなっている作品だ。冷酷な科学的アプローチが和らいでいて、控えめなのは、芸術的価値がある作品だからであろう。

展覧会を見に訪れた人達にこの最初の部屋で和らぎを与えている。そんな森美術館の素晴らしい仕事に感心せずにはいられない。更にそれは、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーンのハートの作品が、19世紀のレントゲンテーブルに並置されるなど、古いものと新しいものや、科学と芸術の注意深いバランスの取れた展示からも見て取ることができる。

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Walter Schels Life before Death – Elmira Sang Bastian. 2004. Photography each 100 x 100 cm

ヴァルター・シェルスの作品は、心にグッとくるものを感じさせる。シェルスの痛烈な写真「ライフ・ビフォア・デス」は、ある子供の亡くなる前と後を映し出している。不思議なのは、この2つの写真は、どちらも同様に‘虚偽’、人工的にみえるという点だ。芸術と命を繋ぐ線はここでもぼやけている。

展覧会のインスタレーションのセレクションにも見られるように、命を模倣するゆえ、芸術はただ丹念に作られたコピー以上なものとなる。

Medicine and Art
E. Muller, Set of 50 Artificial Glass Eyes. 1900-1940. Liverpool, England. Glass, wood, velvet, leatherette. 3×31×18 cm. Science Museum, London

E・ミューラーによる50個のガラスの目玉が、こちら側を見返し、保っていた心の平静を揺るがす。美しく作られた、その医療器具を見ると、‘目’としての本来の目的を忘れ、芸術作品として見とれてしまう。

Medicine and Art
Maruyama Okyo Skeleton Performing Zazen on Waves. c.1787. Ink, paper 132.6×59cm. Daijoji temple, Hyogo, Japan

人間の骸骨を描いた円山応挙の「波上白骨座禅図」は、解剖学的に正しい観察のされたその明快さを超越している。

Medicine and Art
Gilles Barbier L’Hospice / The Nursing Home. 2002. Six wax figures, television, various elements dimension variable. Martin Z. Margulies, Miami, USA. Courtesy: Galerie G.-P. & N. Vallois, Paris

ジル・バルビエの楽しげな蝋人形のインスタレーション「老人ホーム」は、かつては力強く、快活だったスーパーヒーローの衰退した姿を展示。「ミスター・ファンタスティック」はその柔軟性を失い、「ワンダーウーマン」は老化に見舞われ、「スーパーマン」は歩行器で支えられている。

生と死という従来からあるアイデアに巧みに挑戦した、円山やバルビエの作品は、見る者に死や病が本当に終わりなのか、または、芸術の形で何を永久に存在させるということは、その存在を延長しているということなのか、という質問を投げかける。

Medicine and Art
Damien Hirst. Surgical Procedure (Maia) 2007. Oil on canvas. 182.9×243.8 cm. Photo: Prudence Cuming Associates Ltd, Courtesy White Cube. © Damien Hirst, DACS, 2009

この展覧会を存分に楽しんでいるというのに、個人的には何かが欠けていると感じてしまう。医療道具の内包しているものが、他のもっと典型的な芸術作品を見る私の知覚を曇らせているようだ。同時に苦い現実の厳しさを迫られたように感じた。冷たく固い科学的な事実と対照的なアブストラクトなインスタレーションの狭間で揺れ動くことを楽しんでいる観客がいる中で、個人的には、論理(科学)と心を迷わす感情(芸術)を切り替えるスイッチが常に必要と感じた。

私たちが生きている限り、芸術は繁盛し続けていくだろう。もし医学や未来の科学的進歩がその道を行くとすれば、私たちは永遠に自分たちの形式で芸術を創造していくことができるだろう。

医学と芸術展:生命と愛の未来を探る ― ダ・ヴィンチ、応挙、ダミアン・ハースト
会期:2009年11月28日〜2010年2月28日
時間:10:00〜22:00(火曜 10:00〜17:00) ※入館は閉館時間の30分前まで
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.mori.art.museum

Text: Alicia Tan
Translation: Mariko Takei
Photos: Courtesy of the Mori Art Museum

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