ダミアン・ハースト回顧展
HAPPENINGText: Sari Uchida
1990年代にヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)の寵児として名乗り出たダミアン・ハーストの回顧展が、4月17日にオープンしたサーチ・ギャラリーで開催中だ。テムズ川沿いの現代美術の双璧を担うテート・ブリテンとテート・モダンのちょうど中間地点に位置している元大ロンドン市議会本部のカウンティ・ホール。今回この建物の一階部分を改装(建築家グループRHWLが担当)し、広告代理店業で大成功をおさめたチャールズ・サーチの個人コレクションの常設ギャラリー(総計約2000点の中から約75点を展示)として生まれ変わった。
Damien Hirst, Hymn (1999-) and The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living (1991)
新作こそ無いが、ハーストの過去12年間のメジャーな作品17点が、トレイシー・エミンの《マイ・ベッド》(1998年)、マーカス・ハーベイの《マイラ》(1995年)他のYBA達の常設作品と同じドーム型天井を持つ元議会室に並んでいる。ハーストは、しばしば「死」そして「腐敗」をとテーマにしており、初期の作品《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living(生者の心における死の物理的不可能性)》(通称「サメ」)がその代表作。1992年の初公開以来、腐敗の深刻な進み具合が時折報道されてきたが、今回の展覧会では専門家の手によりかなり綺麗に手入れされて登場。他には人体模型をモデルにした巨大な《Hymn(讃美歌)》1999年-)がユーモアを、また生きた魚をコンピュータや無地のキャンバスとともに水槽に閉じ込めた《Love Lost(ラブ・ロスト)》(1999年)が死を象徴している。
ハーストそして他のYBA達の作品も、既に1997年のロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催され国内外で話題を呼んだ「センセーション」展でお目見え済みのものが多い。
Damien Hirst, This little piggy went to market, this little piggy stayed home (1996)
元議会室の入り口には、ギャビン・ターク作のシド・ヴィシャス像《ポップ》(1993年)が立つ。その脇を通ると細長い廊下の壁に沿って並ぶ小部屋(元市議会委員のオフィス)のここそこに、ハーストの作品が玉手箱を開く感覚であらわれる。オークや大理石の壁が特徴的な畏まったエドワード朝建築にホルマリン漬けの羊《Away From The Flock(群れを離れて)》(1994年)や巨大な灰皿《Horror at Home(家庭での恐怖)》(1995年)が当たり前の顔をして収まっている。
Damien Hirst, Away From The Flock (1994)
確かにテート・モダンも《ファーマシー》(1992年)など、ハーストの大規模なインスタレーション作品を所有している。しかし、彼の名が初めて世に広まった一連の “ホルマリン漬けの動物の死体シリーズ” を堪能したいならば本展だ。ちなみに地元マスコミによるとハーストは、自作がテート・モダンで展示されることを臨んでおり、新サーチ・ギャラリーに対して複雑な心境だとか。有名人総出のオープニング・パーティの際もメキシコ旅行中で欠席。ついでに、パーティ嫌いのサーチ氏も姿を現さず、主役2人が不在のまま開催された。(その昔、「サメ」制作をコミッションしたのはサーチ氏であったはずなのに…。まな弟子の恩知らず?)
今後は常設展、企画展共にコレクション作品を入れ替えて展示していく予定だ。
Damien Hirst Exhibition
会期:2003年4月17日(木)〜8月31日(日)
開館時間:10:00〜18:00(月曜日休館)
会場:サーチ・ギャラリー
住所:County Hall, Southbank, London SE1 7PB
TEL:+44 (0)20 7823 2363
入場料:8.50ポンド
https://www.saatchi-gallery.co.uk
Text: Sari Uchida
Photos: Nick Kane, Courtesy of Saatchi Gallery © Damien Hirst