
今年で第3回目となるアート・ドバイが3月開催された。
会場となったのはアラビア風伝統的建物を模して作られたマディナ・ジュメイラ。

Art Dubai, evening, Courtesy of Art Dubai 2009
世界中から集結されたギャラリー68館、アーティスト総勢400人によるおよそ2000もの作品の数々が展示された。会場となったマディナの建物内だけではなく、隣接するビーチや駐車場の一部もアートで埋め尽くされた。

Beach Installation, Courtesy of Art Dubai 2009
アート・ドバイにあわせて行われたアブラージ・キャピタル・アート賞の授賞式。なんとその賞金は約2000万円、世界一ともいえる賞金が受賞作3作品に与えられた。ちなみにイギリスの名誉あるターナー賞の賞金でさえ600万円。世界が不況不況と落ち込む中、この桁違いの資金力には驚かされる。参加アーティストの中でも『作品製作に取り掛かかろうと思っても、賞金の事が頭を掠めていい作品にならない。』と話すものもいたと言うが無理もない。(アブダビ新聞ナショナルより) この賞は、中東・北アフリカ・南アジア地域のアーティストを支援する目的で作られたと言う。さて、その栄誉ある賞を受賞した作品はというと、アルジェリア育ちのロシア人アーティスト、ズーリハ・ボウアブデラとアメリカ人キュレーター、キャロル・ソロモン合作の「空を歩けば、うお座~Walk the Sky, Pisces」。

Zoulikha Bouabdellah, Walk on the Sky. Pisces. Courtesy of Art Dubai 2009
星座が照らす夜の空をイメージしたというミラー板の作品の上は来場者が自由に歩くことができる。ミラーの上には星座を形取ったライトの数々が吊るされその上を歩いてみると、夜空に張られたガラスの板の上を歩いているようなとても不思議な気分になる。
この作品にある多角形の星は、アラビアに伝わる古い歴史では神の創造物のシンボルと言われる。『空を歩いてみたいと思った事が一度もない人っている?』とボウアブデラは地元新聞ナショナルのインタビューに笑って答える。そんな誰もが見た夢とアラビアの歴史に自分のルーツを感じ、そこからこの作品のアイデアを得たという。また重なり合う2つの正方形からできている多角形の星は、複雑に多くの人が交わる人類文明を表現したかったとボウアブデラは語る。
アート・ドバイの初日イベント「START」では、学生や子供を対象とした映画製作から芸術討論、大型カンバスに好きなものを自由自在に描くなどのワークショップが開かれた。
まだまだアンダーグラウンド・カルチャーの発展が見られないと言われるドバイでは、STARTの様なイベントが子供達のアート感覚を刺激し、未来のアーティストを生み出す事を大きく手助けするだろう。『STARTは、中東の教育を更に充実する為にアートを使う事を勧める。またこのイベントで、アートドバイをUAE人家族や障害を持った子供達などの新しいオーディエンスが気軽に足を運べるものにできた。』とSTARTのディレクター、ソニア・ブレウィンは語る。

START at Barclays Wealth Learning Zone, School Tour, Courtesy of Art Dubai 2009
写真は地元女子校のグループツアー。巨大な黒板に何人ものアーティスト(の卵)によって好きなように描かれた様々な絵や言葉はなかなかアートになっている。参加者の女の子達も真剣そのもの。自分の描いたものをじーっと眺めている子や、描いては消し描いては消しする子。とにかく皆熱心に作品を手がけていた。

© Mark Niedermann, Courtesy of Art Dubai 2009
今年のアート・ドバイでは、コンテンポラリーアート界で新しく注目を集めている韓国・中国出身アーティストの活躍が同じ極東アジア人として特に目に付いた。中でもマ・ジュンの作品「car」は派手な色使いにアジアの味を効かせた模様が印象的。

Zaha Hadid BENCH, , Courtesy of Max Protetch Gallery
そして有名所では、ニューヨークからの出展マックス・プロテッチ・ギャラリーには、2012年アブダビに完成予定のオペラハウスをデザインした超有名アーティスト、ザハ・ハディッドによる作品もその存在感をアピールしていた。

Youssef Nabil, Self-Portrait with Laila Elwy, Cairo 2002
地元アーティスト作品を集めたドバイのギャラリー、ザ・サード・ラインズのブースにも、もちろん多くの来場者が訪れていた。中でも、ヨセフ・ナビルの「ラリア・エルウィーとの自画像」と題されたこの作品はなかなかおもしろい。

Arwa Abouon, Weapons of Mass Discussion, 2008
そしてこのギャラリーから、もう一つ。ウエポン・オブ・マス・ディスカッション、作品の題を日本語に訳せばズバリ「大量“議論”兵器」。(ウエポン・オブ・マス・ディストラクションは「大量破壊兵器」の意味) そして作品にされたのは、おしゃべり好きそうなアラブ人女性が何とも微妙な表情でその準備を整えている様子から、アーティストのユーモアににやけてしまう。

Sissi Farassat, Mosque, 2006
続いてスイスチューリッヒのギャラリー・カシュヤ・ヒルデブランドからは、こちらのキュートな作品、その名も「モスク」。
さて中東と言えば、ドバイがあるアラブ首長国連邦をはじめほとんどがイスラム教の国。アートとはいえ、裸体画・像やイスラム教を冒涜するような内容やふさわしくないイメージにつなげる様なものは厳しく制限される。
この中東最大のアートイベントも例外ではない。あるアーティストの作品にはコーラン(イスラム教の聖典)とも見られる本の一ページに兵器と馬がイメージされていた為、展示会場のギャラリー責任者が同アートをイベント開催中に展示から外す決定をした一騒動もあった。
似たような議論を呼んだ作品はレバノン系オーストラリア人アーティスト、ジョージ・フィリップによる「インッシャーラー(アラビア語で「アッラーの思し召しならば」と言う意味)・サーフボード」 。作品のサーフボードにはインッシャーラー(Inshallah)の文字が…。本来サーフボードは人々の足で踏みつけられるもの、そのような物にこのような神聖な言葉を書くとは・・と、イスラム教徒達は眉をしかめ議論が沸き起こった。それに対し製作者フィリップは『作品のサーフボードはアートとして作られ、地べたに置かれることも踏みつけられることも無い。』とその場を収め、騒動をよそに彼の作品は多くの来場者の注目を集めていた。

BREENSPACE, Sydney, Courtesy of Art Dubai 2009
さて、貿易拠点として急速に発達するドバイ。そこでは一年中ありとあらゆる分野の展示会や見本市が開催される。やはりその都市柄だろうか。このアートの祭典も、関係者にとってはれっきとしたビジネスチャンスなのだ。というのも、昨年のアート・ドバイでは中東アート市場の開花ともいわれる程の売上げが作品オークションで記録されたからだ。今年はというと、今回出展作品で即売のものは5万円から高いものだと10億円もの値がつくものもあったとの事。しかし今年は世界金融危機の真っ只中。ドバイアート市場でも不況の風は我知らずというわけでもない。タイムアウト・ドバイのレポートによれば、地元アーティストの中には昨年の最盛期に比べると作品の価格が10分の1まで下がってしまった人もいるという。今回出展ギャラリーの一つ、エルアンドエム・アーツは『売上げは予想通り。でもそれは今年の予想売上をそれ程高く設定していないから。それでも不況にも関らず、来場者はアートを買って行きますよ。』とハリージ・タイムスのインタビューに答える。先に紹介した中国人アーティスト、マ・ジュンによる「Car」で注目を集めたミハエル・シュルツ・ギャラリーでは約950万円、630万円、300万円という値段をつけた作品も売却済み。その他にも展示作品全てが売切れとなったギャラリーもある。
地元新聞ハリージ・タイムスによると、アートドバイの共同創設者兼ディレクターのジョン・マーティンは『ドバイはアーティスト達のミーティングポイントとしての役割を確実に果たしつつある。』とし、そうさせるのは、ドバイという都市が、新しいアイデアに対して非常にオープンで文化発信拠点へと急速に発展しているからだと説明する。
不況直撃でバブル崩壊かともいわれるドバイにまだまだ底力があるとも感じられたアートの大イベント。世界中の来場者をドバイに呼び込み大成功でその幕を閉じた。来年のアートドバイに足を運ぶのも楽しみだが、アブラージ・キャピタル・アート賞の賞金を狙って自分の中のアートの底力を探ってみるのも良いかもしれない。
アート・ドバイ 2009
会期:2009年3月18日〜21日
会場:マディナ・ジュメイラ
Text: Mamiko Kawakami