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大友良英

PEOPLEText: Yurie Hatano, Mariko Takei

山口情報センター[YCAM]にて開催中の「ENSEMBLES展」の構想から制作までの様子を聞かせて下さい。

これもこのスペースではとても言い切れない。出会ってから丸5年。最初に会ったときにキュレータの阿部一直さんから、何かやりませんかというオファーは受けています。でも最初はインスタレーションが自分自身にできるなんて思ってもいませんでした。本格的にやろうと思ったのは3年前、飴屋法水さんの展示の音を手伝った頃からです。この時に再び阿部さんから強いオファーを受けました。展示の世界でなんの実績もない私にここまで声をかけてくれたことに本当に感謝しています。彼がいなければ、こんな展示をやることはありませんでしたから。

いざやる段階になって一番考えたのは、音楽、とりわけ即興の世界で長くやってきた私が、展示に関われるとして何ができるのかということです。まずはそこから考え始めました。で、大きな柱として考えたのが「アンサンブル」というコンセプトです。一人で作るのではなく、バンドでもやるように皆でつくる。わたしの役目はさしずめバンマスってところで、あとは、アレンジャーがいたりベーシストがいたり、シンガーがいたりって具合に、そんな組織を、展示でもできるんじゃないだろうか。そこから構想は始まりました。

青山泰知、木村友紀、平川紀道ベネディクト・ドリューSachiko M高嶺格、そして参加してくれた沢山のミュージシャン達や、YCAMの優秀なテクニシャン達、多数集まってくれたボランティアスタッフ達、寸暇を惜しんで協力してくれたYCAMのスタッフ達、そしてYCAMとわたしが出会う切っ掛けをつくってくれた山口在住の音楽家一楽儀など、影に表にの絶大なる協力があって、いい感じのビッグバンドが作れたのではないかと思っています。

制作期間中は、もう皆で連日わいわいと。火事場のようでもあり、お祭りのようでもありの日々でした。私のつたないコンセプトをもとに、本人の想像をはるかに超えるような、スーパーハイクオリティの作品達ができ上がったのは、なによりも、これだけの人たちが、それぞれの役目をもってすごいアイディアとスキルをどんどん出してくれたからだと思います。それは素晴らしいバンドができ上がるのと同じような感じで、見ているだけで感動的でした。
私の名前が前にでてはいますが、正確には今回の展示は「ENSEMBLES」という300人近い人達を巻き込んだ巨大なバンドの作品・・・そんな風に思っています。

大友良英
大友良英+高嶺格+多数のミュージシャン 「orchestras」制作風景

タイトルでもある「アンサンブル」にはどのような意味が込められていますか?

前の回答の通りです。音楽家が展示作品をやるにあたって、持ち込める一番のものは、このアンサンブルという音楽を作る際の制作方法です。まあ、大きなことを言えば、今の人をみていると、アンサンブルする能力が萎えてきている・・・という危機感もあります。過去30年、本来皆でやるものだった音楽が、ラップトップの中で作れるようになり、皆で聴くものであった音楽が、鼓膜を直接振動させるイヤホンで、個人だけの所有物になってしまったのを間の当たりに見てきて、そうした流れに、無駄かもしれないけどはっきりと杭を打ちたいという思いもあります。音楽はそういうもんじゃないだろ・・・って素朴に思ってますから。

アンサンブル・・・というキーワードには、単に音楽の制作方法だけではなく、その背景には、人間の集団が社会とどう向き合っていくのか、あるいはそうやって社会を作っていくのかという視点も含まれていて、その意味では、この作品は今回だけのものではなく、この先私が向き合っていくであろう、大きなテーマが込められてもいます。

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