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塩保朋子展「CUTTING INSIGHTS」

HAPPENINGText: Tatsuhiko Akutsu

日暮里の駅を降り、並木に囲まれた霊園の墓石たちと幾つかの寺を通り過ぎると、伝統的な家屋が立ち並ぶ通りに出る。そこを少し進んだ所にある元銭湯の建物を活用したギャラリー、SCAI THE BATHHOUSEで塩保朋子初の個展「Cutting Insights」展が8月29日から9月27日まで開催される。ある意味では禅にも似た空気を感じながらその「銭湯」ののぼりをくぐった先には、ある悟りが待ち構えていた。

塩保朋子「Cutting Insights」展

1981年生まれの塩保朋子は、大学卒業以来カッティング、はんだ、ドローイングなど、繊細なハンドワークの反復によって自身の自然観を反映した数多くの作品を展開し、活動の幅を広げている。作品のベースは、繰り返される無数のパターン。しかし、そこに機械的な冷たさはない。製作の過程において、彼女自身が長い年月を掛けて繰り返される自然のリズムと一体となり、畏敬の念と共に優しく自然の素顔を捕えるのだ。

塩保朋子「Cutting Insights」展

奥のスペースに展示されているのは、天井まで続く大きなインスタレーション「Cutting Insights」。高さ6メートル、幅3.5メートル程の紙に気が遠くなるほど細かく切り込みを入れることで作られる流線模様は、風・空気・水・海・植物あらゆる自然の一瞬の躍動を反映し、今にも流動しそうな生命力を感じることができる。その模様はスポットライトに照らされ、背後のホワイトボードに天井を越えるほどより大きな影が写る。白と灰色のコントラストを作り出し、それぞれの光が無数の穴を通り抜け映し出す光景は、まるで宇宙に散らばる惑星のようだ。自然の壮大さ、宇宙の普遍性、そして彼女の自然観を一枚に収めた作品。

塩保朋子「Cutting Insights」展
© Tomoko Shioyasu courtesy of SCAI THE BATHHOSUE 撮影:木奥惠三

環境が作り出す静寂を感じながら、彼女によって切り取られた自然の気配と心の眼で対峙する時、我々は、自らが自然のもたらす循環生活の一部に過ぎないことを悟る。しかし、それは決してネガティブな悟りではなく、自然の偉大さ、美しさを気付かせてくれる貴重な体験として、見る者の自然観を突き動かす。

帰り道、霊園の道端の枯葉にふと目を落とすと、その葉脈がよりはっきりと輪郭を持って見えた。その場で立ち止まって周りを見回してみると、木々や光の粒まで新しく命を吹き込まれたかのようだ。これが、かつて塩保自身が魅了され、これまでの作品を支えてきた「自然のダイナミクス」なのかもしれない。

塩保朋子「Cutting Insights」展
会期:2008年8月29〜9月27日
会場:SCAI THE BATHHOUSE
住所:東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
TEL:03-3821-1144
http://www.scaithebathhouse.com

Text: Tatsuhiko Akutsu
Photos: Tatsuhiko Akutsu

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