VIP アートフェア
HAPPENINGText: Kana Sunayama
インターネットによって世界中に発信された抗議運動が一国の政変に繋がった頃、現代アート市場でもインターネットの可能性が試されていた。もちろん作品を実際に見ることなしに、メールでの取引で作品売買が成立することも珍しくない昨今だが、今回の取引とは規模を違する。 それというのも、1月22日から30日までの一週間、史上初の完全オンライン・アートフェア「VIP アートフェア」が開催されたのだ。
オンラインということ以上に、まずその参加ギャラリーのラインナップに驚かされる。ガゴジアン、ホワイト・キューブ、ブルーム&ポー、デイヴィッド・ズウィルナー、イヴォン・ランベール、ハウザー&ワース、エマニュエル・ペロタン、サディー・コール、グザヴィエ・フフケンス、マリアン・グッドマンなど、現代アートフェアの最高峰といわれる「アート・バーゼル」に毎年顔を連ねているギャラリーなどばかりだ。日本からもギャラリー小柳、ミヅマ・アートギャラリー、オオタ・ファインアーツ、SCAI THE BATHHOUSEが参加。30カ国から全139ギャラリーが参加し、2,000アーティストものアート作品7,500点もが出品された。ギャラリーの質が高いので、もちろん出展されているアーティスト達のリストもバスキア、フランシス・ベーコン、ジャクソン・ポロック、ダミアン・ハースト、村上隆など、実際に作品を見ることができないことにジレンマを感じるほどのハイクラスな面々。
各参加ギャラリーは、「リアル」のアートフェアと同じように、ネット上に設けられたページを得るためにブース料金を支払い、そこに作品の写真をアップする。各作品はズームによって画像を拡大したり、ディテール部分をじっくり見たりすることができる上、各作品のキャプションはもちろんのこと、大まかではあるが、作品の値段設定までもが表示されている。
ビジターはというと、パソコンの前にいながらにして、世界中のギャラリーが展示している作品をマウスを転がしながら観賞する。もしも説明が必要であったり、または売買交渉に入りたい場合は、チャットもしくはスカイプにより、世界に散らばりながら待機しているギャラリストに連絡をとることができる。
しかしいざ始まってみると、サーバーが幾度もダウンし、100ドルを支払って入ることのできるVIPスペースのチャットも機能しないことが多々あり、主催者側は VIPスペース入場料として支払われた金額を全て返却することが発表された。
また、ギャラリー側も待機時間が長いわりには、本当の交渉に入れるほどのチャットが来ない、など、すこし空振りのような感じを受けたという声も多かった。ギャラリー側としては、何人のビジターがどの作品をクリックしたのか、という数字で現れてくる、まるで人気投票のような結果だけでは、そこに売り上げ、または新規顧客開拓という結果がない限り、全く意味がないとも言える。「リアル」のアートフェアでなら、コレクターをうまく「つかまえる」ことができる敏腕ギャラリスト達も、コレクターの方からチャットなりスカイプなりで話しかけてこない限りコンタクトに入れないというのは、ただただもどかしいだけのものではないだろうか。これではギャラリーのサイトと何ら変わらないではないか、という声にも頷けてしまう。
アートフェアやビエンナーレなどの国際展などに行くため、年がら年中世界中を駆け巡っているコレクター達。これからは、やっと一息つけるはずの一月まで、パソコンにかじりついてアート漁りをしないといけないはめになりそうかと思ったが、このバーチャルでリアルなアート売買が、来年も存続されるのか、疑問が残る。
VIP アートフェア
会期:2011年1月22日(土)〜30日(日)
https://www.vipartfair.com
Text: Kana Sunayama