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第4回 ブエノスアイレス・ファッション・ウィーク

HAPPENINGText: Gisella Lifchitz

ナディーン・スロトゴーラは、地元でも名の知れたデザイナーの一人。そのこともあり、彼女のショーは今回のブエノスアイレス・ファッション・ウィークでは、ラストの1本として行われた。前回、彼女がショーの開催場所として選んだのは孤児院。モデルの何人かは、そこで生活をする子供達に恐怖心を抱いていたようだ。しかし、演出上の露出を批判する人たちでさえも、ストレスや絶望感を抱きながらのショーは人々の心を捉えたものになった。

そして今回、モデルが身にまとっているのは、整形外科で使われている装置。回復に向かう病人を表現している。舞台の端で立ち止まり、オーディエンスをじっと見つめるモデル達。固そうな見た目か、あるいはもっと穏やかなイメージのどちらかを彷佛とさせる。メタル系の音楽が流れていることで、その状況を更に確固たるものにしている。これはかなりスマートなショーだと言ってもいいだろう。どこか不安定さも感じさせる舞台の魅力を利用する、ということを理解するのは決して簡単なことではないが、それでもなお、あえて並外れたファッションイベントを期待させてしまうのを促しているのだ。

彼女のプレゼンテーションが常に「人々への劇化」という演劇的な効果があることは、ナディーン自身も認めるところである。彼女自身のあらゆるルーツや、自分のデザインを説明付けに各国の深い伝統を振り返る。そしてまた、毎日着れるような服を作りたい、という気持ちをロマンチックなタッチで、そして現実性というよりもファンタジーに近いテイストを持った服を通じて表現しているのである。オーディエンスによって、彼女のスタイルの理解も様々だ。しかし、その感受性とセンスの理解だけは共通したものである。

今回彼女は、スプリング・サマー・コレクションを発表したが、残念ながらそれらは 15日間しか公開されなかった。しかし、彼女は知っているのだ。織物を手にし、その手触りを感じながら彼女が気付いたもの。それは『自分の気持ちを読んだのです。そしてセッティングを思い描き、服の制作に取り掛かりました。』それだけではない。彼女が追求したいと思ったのは、音楽を聴いたときに表れる人々のリアクションだ。時に人は音楽と一緒の場合、有頂天になったり反響しあったりする。音楽を通じて、舞台を歩くモデル達によって彼らの気持ちを掴むのが目的なのだ。

チューブやワイヤー巻かれていたり、外科で使われる装置を身にまとったモデル達は、彼女のコレクションを意味付けるプレッシャーと抑圧という2つのプロセスを象徴している。プレッシャーがあることで、彼女自身が成長し、何かに向かってジャンプしてみることの恐怖に直面する。その一方で、抑圧というものも存在するのだ。『この2つからは、走り続けるということを教わりました。しかしその反面、縛り付けれらてしまうというのも事実です』と彼女は言う。そしてそんな彼女は、彼女自身の反抗心を、抑圧を形付ける術として利用している。だからこそ『人は傷つくことを止めない』と彼女は言うのである。抑圧は、成長の過程で発生するフレキシブルな構造を通じて、普遍的なものにその姿を変えるのだ。

彼女の作品には、センチメンタルで分析的な思いも込められている。彼女自身も『以前に作った作品を徹底的に見つめ直す時があります。そしてそのことで、完成した時よりもその作品がどのようなものになって欲しかったのかをしっかりと知ることができるのです。多くの事を理解することができなくても、気付くことはできるのです。』と言う。

たとえ彼女のスタイルが型破りで、売るには向いていないのではないか、という声が多く聞こえようとも、彼女には『売るためだけのものを追求する選択肢はありません。作品が生まれ、そしてそのあるべき形でそこにあるだけなのです』という思いがあるのだ。

4th Buenos Aires Fashion Week
会期:2002年9月3日~6日
住所:Buenos Aires, Argentina
info@bafweek.com
https://www.bafweek.com

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Sachiko Kurashina

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