「コントロール・スペース」展

HAPPENINGText: Timo Linsenmaier, Joerg Radehaus

1785年、イギリス人哲学者ジェレミー・ベンサム(1748-1832)は、「パノプティコン」と呼ばれるモデル刑務所を作る計画で働きはじめた。この設計デザインの特徴は囚人には気付かれないよう、個々の牢獄を中央管理室から監視する事ができるということ。ゆえに囚人達は監視されていることに確信を持てなかったが、実質的な看守がいなくなったので、そう思わざるを得なかった。ベンサムはこの見えない視線を取り入れる事で、懲罰を恐れて囚人達が不正な行為をするのをやめるのではないかと踏んでいた。このモデル刑務所は長い間道徳的、政治的な論争を呼んだ。その一方で、パノプティコンの中央管理室は世界的に類を見ない程、あらたな監視の経験と実践の場となっていった。


The Pentitentiary or Inspection House, 1791 © University College London Library, Bentham Papers 119a/120

中にカメラがあるかもしれないただの黒い箱が設置された交差点で赤信号を無視しようとは思わないのと同じ理由である。イッチェロンやその他のシステムが登場したのを受けて、インターネット上で監視についての最近の議論が報告されている。一般の人々もこの問題に関心を持ちはじめたようだ。

ドイツで昨年、注目を集めたある展覧会が開催されている。カールスルーエ・アート&メディア・センター(ZKM)で行われた「コントロール・スペース」は、59名ものアーティストが参加した、監視をレトリックにした初めての大規模な展覧会だ。会場内のアトリウムを歩くと、アーティスト達が「監視」というものに様々な角度で取り組んでいるのが分かる。

オートノミー協会が運営している「アイ・シー」は、公共の場所にある監視カメラを避ける手伝いをウェブ上でしてくれる。アイ・シーのウェブサイトを訪れると、ニューヨーク市の地図が現われる。そこには、ニューヨーク監視カメラプロジェクトが調べた全ての監視カメラの場所が記載されている。地図上で出発地と目的地をクリックすると、協会が開発したソフトウェアが二点間で一番監視カメラが少ない通り道を教えてくれる。この道をたどれば監視されているという恐怖から解放されるのだ。オートノミー協会は言う『このシステムは、個人的な興味との再バランスをとる手段。それは社会規制や共通の利益の名のもとに市民の自由が侵食される不安をシニカルに利用するようなものなのです。』一般の人々の理解を深める事に反対したり逆にこういった興味を埋没させることに反対したりする傾向が増えているという。

同じような方向性をもちながら、全く独自のコンセプトがSCPニューヨーク監視カメラプレイヤーズによって作られた。アルフレッド・ジェリーの「ウブ・ロイ」やジョージ・オーウェルの脚色「1984」のように、ニューヨークの通りにある監視カメラの前で行うパフォーマンスだ。1957~1971年にヨーロッパとアメリカで起こった文化革命的なバックグラウンド行動をとったアーティスト集団「シチュアシオニスト・インターナショナル」にSCPは影響を受けている。そのシチュアシオニスト達のようにSCPは公共妨害やスキャンダルまた、それを引き起こすことによって達成できるものに興味を抱いている。


In the event of Amnesia the city will recall… part I, Sydney Australia Performance, 1996-1997, Denis Beaubois, Photo: David Rogers

同じような妨害の話しではあるが、デニス・ボーボワは、また異なったレベルのものだ。彼は舞踏の技術を学んだこともあって、カメラに向けサインボードを待ち、何時間も動かずに立ち尽くす事ができる。そのサインボードには「そのテープを私がもらう事ができるのですか?」、「注意、このサインを呼んでいるとテープに移ります。」などと書かれている。このようなストイックなパフォーマンスには度々反応があり、彼は公共の妨げになるという事で警察に捕まった。しかしこのパフォーマンスは一連の疑問を投げかけた。ボーボワがいうところの「第一の観客」と「第二の観客」との間に存在するダイナミズムの探究だ。「パフォーマンス」の中で、ボーボワは「第一の観客」は、監視カメラだと述べている。特定のものに監視システムの焦点をあてさせることもパフォーマンスの一部だと言う。見る側から見られる側への変換、あるいは見られる側から見る側への変換という混乱が彼の作品を非常に面白いものにしている。

SWRラジオ&テレビ局は、インターナショナル・メディア・アート・アワードに寄付をするため、セントラルアートメディアと提携した。カリフォルニアのシリコンバレー王国の秘密を調査するため小さなスパイ飛行機を制作するインバース・テクノロジー社に多くのお金が渡され、そのスパイ飛行機は、展覧会に出展された。インバース・テクノロジー社のエンジニアが冷戦体制の寛大な副産技術を用いて作った小さな飛行監視ユニットだ。ラジコン飛行機と同じデバイスを使い、白黒ビデオカメラとデジタル画像を絶えまなく地上のレシーバーに送る発信装置を積んでいる。ビデオ信号は、ジョイスティックコントローラーと組み合わせて使われて飛行機を制御する。その結果、世界で最も秘密に包まれ洗練されているとされるコンピューターメーカーが全くガッカリするほど普通であることが判明した。

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