ボゴミヤー・エッカー「鍾乳石マシーン」

PLACEText: Andrew Sinn

ギャラリー・オブ・プレゼンスは、ハンブルグにある現代アートを紹介するギャラリー。このギャラリーがオープンしてからある、ある作品に僕は長い間感銘を受け続けている。それは、ボゴミヤー・エッカーという人物が考案し、制作した「鍾乳石マシーン」だ。


Bogomir Ecker, Tropfsteinmaschine, 1996-2496 © Hamburger Kunsthalle / bpk © VG Bild-Kunst, Bonn, Photo: Elke Walford

狭い通路を抜けるとある部屋。ガラスの壁が部屋の空間を区切っている。そのガラスの壁には、配管が天井から張り巡らされており、水が滴る様も見ることができる。その下は大音量を出すことも可能なスピーカーの膜を思わせるような造り。水がしみ込んでいる具合から、長い間、水が滴り続けていたことが伺える。でも、そのしたたりを見るには、少し待つ必要がある(20秒)。そしてそこには、鍾乳石なんてひとつもないのだ。

壁にグラフィックの作品があるのに気付く。それは、どのようにマシーンが作動するのかを説明したもの。漏斗を通じて雨が集められ、タンクに溜まる。そこから、フィルターシステムのような場所に水が運ばれ、部屋へと通じるのだ。

壁には、カルシウムでできた幅50cmのライムストーンのプレートが含まれており、それが縦に5千個。そこからは、たった50cmに達するまでに、5千年かかるという事実を予想することができる。鍾乳石マシーンについての情報を読んでみると、100年間で成長できるのはたったの1cm。自然のそれと、まったく同じ仕組みなのだ。

ギャラリーの1階にはフィルターシステムがあり、これは生態環境の役割を果たしている。月桂樹は地球という生態環境の上で生息し、その地球の下には、20cmの石灰の小石が層になっている。ここで水は、鍾乳石を作るのに必要不可欠な炭酸ガスと石灰の養分を得るのである。

僕がこのマシーンにとてつもなく惹かれた理由はここにある。これは、継続的な素晴らしいインスタレーションだし、ほとんど何も得ることがないのにこの試みをやってしまっているのがすごい!僕の知ってる限りでは、このマシーンは少なくとも5年は作動しているはずなのに、鍾乳石が成長している様子はまったく感じられない。だからこそ、ちがった意味での時間の楽しみ方を与えてくれるのだ。僕達は、速く過ぎ去る時間に慣れてしまった。そしていつのころからか、人間の寿命を基準として、時間の長さを計るようになってしまった。僕達は歴史を知っているけども、どのように物事がゆっくりと発生していくかを理解するのは難しい。例えば、原石や石油といったものの成長は、まさにそれだろう…。

Bogomir Ecker “The Stalactite Machine”
会期:1996年〜2496年
会場:Hamburger Kunsthalle
住所:Glockengiederwall, 20095 Hamburg
TEL:+49 (0)40 4285 45765
info@hamburger-kunsthalle.de
http://www.hamburger-kunsthalle.de

Text: Andrew Sinn
Translation: Sachiko Kurashina

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