天野 真

PEOPLEText: Miwa Yokoyama

《VOICE | NOISE》も同じようなコンセプトを持った作品に感じますが、こちらの作品についても教えてください。

VOICE | NOISE》は、《Focus Change》と同様にノイズキャンセリング・フィルターを対象にして制作した作品ですが、より街中での体験にフォーカスした作品です。《VOICE | NOISE》は、OBSスタジオなどの配信プラットフォームで使用されているノイズキャンセリング・フィルターのRNNoiseをシステム的にハックして、ノイズキャンセリング・フィルターに排除されるノイズを操作することができるウェブアプリケーションです。この作品では、ノイズキャンセリング・フィルターの操作、音の録音、音の共有を行えるものとなっており、普段のシステムでは排除され聴くことができないノイズを敢えて聴く体験を提供しました。

AIなどの最新技術を逆手に取った作品を数多く制作されていますが、AIやテクノロジーの捉え方を含め、そのようなことを作品に取り入れようと思った経緯について教えてください。

テクノロジーを逆手に取る作品を制作するようになったきっかけは、普段の生活の中で感じた些細な違和感です。ノイズキャンセリング・フィルターを題材にした作品のきっかけは、オンライン授業の最後に参加者全員で拍手をする機会があり、私の耳にその音が全く聞こえなかった瞬間です。「今、私は拍手をノイズだと思っていないけど、なんで聞こえないのだろう?」という、気づきを掘り下げていくことで、作品制作に繋げていきました。普段、当然のように利用しているからこそ気が付いていなかった、テクノロジー特有の違和感をしつこく突き止めていくことが私の制作活動の始まりだと思います。

他にも、《UNLABELED — Camouflage against the machines》も興味深い作品でしたが、こちらの作品についても教えてください。

UNLABELED — Camouflage against the machines》は、監視カメラに「人間」として認識されないためのファッションです。中国だと顕著ですが、監視カメラから個人を特定したり、カメラの映像を応用してマーケットや購買行動につなげるといった動きが増えてきました。私たちは、その身勝手な搾取から自らを守る手段を持っていません。そこで、監視カメラの中に搭載されている画像認識システムに「人間」と認識させない柄を身に纏うことで、データ上の透明人間になることを目指しました。

画像認識システム(この作品では「Yolo v2」というモデル)に対して、「人間」と認識される割合が下がるように機械学習を進め、ノイズ柄のテキスタイルを生成しました。そして、その柄を服に応用することで「人間」として認識されないことを実現しました。この服は私たち人間の目で見ると派手で目立つものですが、機械の目を通して見ると透明になれるという、相反する結果を生み出す点がとても面白いと思います。

インスピレーションを受けたプロジェクトや作家、日頃、刺激をもらうことなどがあれば教えてください。

振り返ってみると、映画監督のクリストファー・ノーランと画家のマウリッツ・エッシャーに大きな影響を受けたと思います。彼らの作品に共通しているのは、「構造」だと思います。ノーラン監督の作品は、時間軸のトリックに階層的な構造を持っており、裏側の影響が表側に見え隠れしています。エッシャーの作品は錯視として有名ですが、私は「集合と個」の関係が面白いと感じています。一つ一つの要素でも完成しているが、その要素同士が徐々に影響を与えていき、系全体としても完成されたものとなっています。彼らの作品は、基盤の構造に軸を持ちながらも、表現での裏切りやワクワク感を与えていて、素晴らしいと思います。

今後の展望やビジョンを教えてください。

今後もテクノロジーを逆手に取る作品を作っていきたいと思います。最近はSNSなどで大きな問題になっているフィルターバブルの問題や検索システムに興味を持っています。そういったところと絡めながら作品を作っていけたらと思っています。

これまで社会システムなどを題材にしながら個人制作と発表を行ってきました。今後、発展として個人での作品制作を進めるだけでなく、ある都市を対象にしたリサーチやフィールドワークといった開いた形で展開していきたいと思っています。

Text: Miwa Yokoyama

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