フェイズ・フェスティバル
HAPPENINGText: Rei Inamoto
「SUBVERT THE FUTURE(未来を覆せ)」というスローガンで、フェイズ・フェスティバルが先週の日曜日に幕を開けた。
満員の観客のもと、15以上の新しく独特なコマーシャルとミュージックビデオが上映された。その中にはMTVなどの主流なチャンネルで放送禁止になっているものもあり、フェスティバルのエグセクティブプロデューサーである アディン・イクームが述べたように、「主流となっている伝統的なものを覆す」ような強烈な作品がこの一回限りのイベントにバラエティ豊富に集められた。プログラムには クリス・カニンガムのような有名なディレクターによる作品から、あまり知られてない新人の作品も参加していた。
何作品かの悪名高きミュージックビデオ(クリス・カニンガム監督の古典的なエイフェックス・ツインのビデオ「Come to Daddy」や、ヨナス・アカーランド監督の発禁となったメタリカのビデオ「Turn the Page」など)がラインナップに加えられた一方で、今までに見たことのない沢山のビデオが上映された。新しいものからすでにリリースされているものまで、きわめて見るに値するすごい作品ばかりだった。その中でも僕の目を釘付けにしたのは、ジャミロクワイのビデオでもお馴染みの ジョナサン・クレイザーによるアンクルの「Rabbit in the Headlights」と、このフェスティバルでアメリカ初公開となった クリス・カニンガムによるビョークの「All is Full of Love」の2作品だ。
「Rabbit in the Headlights」では、周りには目もくれずに変な歌を歌ったり、ぶつぶつ独り言を言いながらトンネルを独りぼっちで歩いているしわくちゃでだらしない男が登場する。彼のそばを車が通り過ぎ、クラクションを鳴らしドライバーが怒鳴っている。すると突然男が暴力的になる。が、すぐに男は平静を取り戻し歩き始める。それでまた突然暴力的になる。その繰り返し。この衝撃的なクリップは普通のビデオではない。「このビデオは見る物を不快な気持ちにさせ、絶対に忘れられないものになる。」実際そのとおりだ。エンディングのシーンは今でも印象的で、頭から追い出すことができない。
クリス・カニンガムによる、すごく美しいアイスランドの歌姫ビョークのクリップ「All is Full of Love」は、シンプルでエレガントであると同時に複雑で衝撃的だ。セックスとロボットという2つのテーマをミックスし、最も詩的で脱力感を感じさせる方法で「LOVE」を見事に描写している。
フェスティバルの主催者は、ここで取り上げられたコマーシャルやビデオはメインストリームを覆すものだということを力説していた。このことは上映された作品やゲストのトークで、ある意味描写されていたように思う。だが、上映終了後のQ&Aセッションで、ある観客が、そのフェスティバルで初公開されたジャミロクワイのそれほど強烈でない新しいビデオに対して、それが完全にコマーシャルで単なる広告物に過ぎないと厳しく批評した。
フェスティバルの意味を弱めたもう一つの要素は、作品のセレクションにあった。強烈なラインナップであったことは認めるが、20作品に満たないリストのうち クリス・カニンガムによるビデオが4作品も選ばれたことは偏り過ぎで、過大に贔屓していたように思う。また、メインテーマである「セックスビジネス」に関する何作品かのビデオでは、何かを覆すようなものは表面には現れていなかった。僕達が普段見ることがないようなものを見るのはかなりショッキングだが、そういったビデオには安っぽい驚きはあっても深く心を動かされるようなものはなかった。
そうは言っても、フェイズ・フェスティバルは勇敢で価値のあるイベントだったと言えるだろう。そして「何かを覆す」ということは放送や映像産業に限られたものではない。今後このようなイベントがもっと沢山開催され、さらに他の分野にまで拡大することを期待する。
『メインストリームを覆せ!未来を覆せ!』
FAZE FESTIVAL
日時:1999年5月16日(日)
会場:Cantor Film Center
住所:36 East 8th St, New York, NY 10003
料金:$10
TEL:+1 516 888 9000
Text: Rei Inamoto
Translation: Mayumi Kaneko