ヒロミ・タンゴ
PEOPLEText: Ayumi Yakura
四国出身で1998年からオーストラリア在住のアーティスト、ヒロミ・タンゴ。オーストラリアだけでなく、シンガポールや日本でも活動する彼女が、作品制作の上で興味のあるテーマや、夫であるアーティスト、クレイグ・ウォルシュとのコラボレーション、2013年に参加した瀬戸内国際芸術祭での展示作品についてやオーストラリアへの旅についてなど、様々な質問に答えてくれた。
Hiromi Tango, Electric Human Chromosomes 1, 2017, Pigment print on paper 80 x 114 cm, Edition of 6 + 2AP
まずはじめに、自己紹介をお願いします。
四国出身の日本—オーストラリア人で、1998年からオーストラリア在住です。アートとパフォーマティブな取り組みを通じて、癒される会話を作り出し一体感を高めることに、主に関心があります。「人間であるとはどういうことなのか」、技術や人工知能との微妙な関係、また私たちの活動において人間性をどう維持するか、という点に興味があります。
日本女子大学では人文学を専攻し、東京にいる時に現在の夫であるクレイグ・ウォルシュに出会い、現在彼との間に2人の子供がいます。2013年からは、シドニーとシンガポールにあるサリバン+ストランフ・ギャラリーに所属しています。
繊維を主な素材として選ばれた理由は何でしょうか?
初期の作品はインハビテーションが多く、一緒に携わった一般の人たちからストーリー、ドローイング、詩や、それ以外の形の物語を集めていました。そして変化の過程の一部として、言葉の意味通り、また比喩的にも、それらを縫い合わせ始めました。布への移行は、ある意味で縫うことの論理的進化であると同時に、布で包むことによってナレーション法を変えるやり方を探していたので、違った意味での変化とも言えます。時には願いを込めたモノや、写真やノートなどを大切に保管するためでもあり、ある時には、特定の記憶や考えからの象徴的な分離を生みだすものでした。
ほんの束の間のインハビテーション体験から、もっと実体のある彫刻的なインスタレーションへと創作が進化するにつれ、長持ちする布の重要性が増していきました。布で創作することが以前から好きで、日本の家族にもらったビンテージシルクの着物も沢山持っています。面白いのは、家族の絹の着物に関わるようになったのは、ほんの最近なのです。私にとっては心理的、感情的な変化で、伝統的なフォーマルな服装ではなく、アートとして着物の形を変える心の準備ができたのだと思います。
着物を自分の手で縫う祖母達と育ったので、いつも絹の切れ端で遊んでいて、彼女達の横で何かを作っていました。また子供のころからクリエイティブな人たちに囲まれていて、彼らから色、テクスチャー、動き、レイヤー、構造の豊かさを理解することを学びました。祖母達も伝統的なアートギャラリーや劇場に連れていってくれ、それらの影響を受けました。
Hiromi Tango, Art Basel Hong Kong 2016 installation
彫刻、写真、インスタレーション、パフォーマンスなどを幅広い表現を行っていらっしゃいますが、多くの場合、アートと人との距離が親密で、時に一体になっている印象を受けました。この事は、ご自身の表現活動に通底するテーマと関わりがありますか?
ものの見方においてアートができること、そしてその変化する性質「aha」という瞬間や「pi pi」の瞬間に関心があります。私は芸術的活動が人の心をやさしくとらえ、マッサージして変化させていく、その瞬間を大切にしています。観客の一人としては、感受性に触れたり、感動したりできるアートを楽しんでいるので、これがアーティストとして作品を作る上で、重要な側面かも知れません。ですが、制作においては論理的でなく、日々私たちが人間関係を構築するように、直感的に制作をし、自然かつ本質的に進化させていく方を好みます。
私の作品はしばしば非常に個人的な物語の探索であり、それは自分自身の、時には地域の参加者がシェアしてくれるストーリーです。時には人間とは何か、人間としての健全な活動や関係をどう維持するか、を自分に問いかけます。
これらの人間としての経験、アート制作のプロセスでシェアするということは親密な行為です。例えば認知症の患者が色彩をどう体験するのか、色の違いがポジティブな感情を引き出すのかいうことに、特別な関心を抱いています。このアイディアをシェアすることで、大切な人が認知症になった経験がある方や、病気や障害のせいで限られた経験しかできないという方など、多くの人とつながることができます。これらの物語が予期しない形で人々を結びつけ、違ったつながりを作り出し、違う経験にしていけたらいいと思います。
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