林田嶺一「ポップ・アート」展

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

少年時代、上海の英国様式の食堂で、美しい「チャイニーズアールヌーボー」の窓越しに目に焼き付いた戦火。店内で魅了された美しい広告。戦後、林田の中に長らく封じ込められていた懐かしく強烈な記憶が、色鮮やかに作品の中へ蘇っていった。

2014年の組作品「天津飯店(チャイニーズアールヌーボー)」の中心となる作品は、天津飯店のショーウインドーの中に、ケーキに代わる戦艦の模型があり、マストに人形が刺さっている。大人の目線で悲惨さを忠実に描く戦争画ではなく、子どもだった頃の目線のまま、無邪気な「戦争ごっこ」の中に、「食事の現場」と「生死の現場」を混在させているのが特徴だ。

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「天津飯店(チャイニーズアールヌーボー)」2014年, 690 x 470 x 115 mm, ミクストメディア, 組作品の一部, クロスホテル札幌

「戦争画」でありながら、広告を用いた「ポップ・アート」である作品は、北海道の美術界で評価されず、長年にわたり敬遠されたが、逆境の中でも林田は独自の創作を貫き続けた。60代で「キリンアートアワード」優秀賞を受賞して以降は、一転して風向きが変わり、国際的な美術賞を次々に受賞している。

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「チャイニーズアールヌーボー」2016年, 405 x 365 x 25 mm, ミクストメディア, クロスホテル札幌

2001年に描かれた「大阪キリンプラザ美術館」は、同館から見た大阪の街並の写真へ部分的にペインティングを重ね、半立体的に風景を浮かび上がらせたコラージュ作品だ。2007年に全道展を退会し、大阪のAU会員になると、横尾忠則など著名な現代美術家達の中でも林田作品は受け入れられた。京都芸大や大阪芸大の教授からも励ましを受け、また、会員の作品から大きな刺激を受けたという。

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「大阪キリンプラザ美術館」2001年, 320 x 290 x 25 mm, ミクストメディア

独学で、何物にもとらわれず心のまま表現する林田独自の技法は、コンセプティブでありながらも『生の芸術』に他ならず、世界的に関心が高まってきている「アール・ブリュット」の関係者からも注目されるようになった。特に、この一年は立て続けに出品依頼を受け、滋賀県ボーダレス・アートミュージアムNO-MAでの国際展、苫小牧市美術博物館の開館3周年記念特別展、当麻かたるべの森美術館の企画展、北海道アール・ブリュット・ネットワーク協議会によるギャラリー大通美術館での「北海道アール・ブリュット展」、そして、同時期にクロスホテル札幌で開催された「北海道アール・ブリュット展」にも特別招待作家として出品した。

現在は、クロスホテル札幌にて「林田嶺一 ポップ・アート展」を開催すると同時に、青森県立美術館の企画展「ラブラブショー2」で、満州を記録した民俗学研究者の今和次郎(故人)とのコラボレーション展示を行うなど、今後益々の活躍、及び評価が期待されている。

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林田嶺一「ポップ・アート」展

会期:2017年4月4日(火)〜6月30日(金)
会場:クロスホテル札幌 ロビー・ミートラウンジ
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画課 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:北海道アール・ブリュット・ネットワーク協議会、原田ミドー、まちなかアート
https://www.crosshotel.com/sapporo/

Text: Ayumi Yakura
Photos: Ayumi Yakura

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