MOTアニュアル 2012「風が吹けば桶屋が儲かる」

HAPPENINGText: Miki Matsumoto

『多くの人が同時に体験する大きな一つのできごとがあったとする。個別の生を生きてきた背景や、体験したその時における各人の感情や行動、できごとの前と後の生活の変化、周囲の人から受ける影響。それらの差異により、大きな一つのできごとは、人々の間でそれぞれ異なる捉え方をされ、そのどれもが間違っていない。』
(MOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」展、展覧会趣旨文より引用)

あらゆる異なる考えが等しく正しさを含む場合、我々は異なる意見をもつ他者と、どのように関わり合うことができるのだろう。

MOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」展
田村友一郎 《深い沼》 2012年 (部分)

「MOTアニュアル」は、東京都現代美術館が1999年より継続的に開催しているグループ展であり、時代と結びついたテーマのもと、若手作家を中心に紹介してきた。12回目となる2012年は、10月末から翌年2月初旬までの会期で開催され、「状況の制作、風景の編集」をテーマに7組の作家が集った。

本年の参加作家に共通するのは、自らの手で造形を行うのではなく、ある状況を設定し、そこに他者を介在させることで作品を成立させるという制作スタイルだ。「風が吹けば桶屋が儲かる」(ひとつの出来事が巡り巡って思いがけないところに影響を及ぼすという意味の諺)というタイトルが示す通り、7者7様の作品が緩やかに関わり合うことで、見る者の内側に様々な問いを巻き起こした展覧会の様子を、以下にレポートする。

この展覧会で最初の風は、展示室に足を踏み入れる前に巻き起こる。

チケットを受付に差し出すと、一枚の紙を渡され、こう告げられる。『田中功起の作品は美術館にありません。彼は美術館の外で活動しています』。

日常のシンプルな行為に潜む複数のコンテクストを暗示するような、ユーモア溢れる映像作品を発表してきた田中功起は、2013年ヴェネチア・ビエンナーレに日本館代表としての参加が決定しており、今最も注目を集める日本人作家の一人だ。そんな田中氏は今回、『美術館の外での活動を強調することで、展覧会とアーティストとの関係や作品経験のあり方に、別の視点を持ち込みたい』(*1)との理由から、館内では作品を展示しなかった。

ならば、どこに行けば作品を見ることができるのか?受付で貰った紙に、そのヒントがある。会期中に田中氏が行う関連企画が全て記されたその紙を見ると、JR山手線車内でのゲリラトークイベントや、渋谷の映画館でのスクリーニング、オンラインマガジン「ART iT」に掲載された、担当学芸員との往復書簡など、場所・内容とも様々な「作品」が示されている。その多くは一回性という特性を備えつつ、ドキュメントの作成・公開がインターネット上で積極的に行われており(*2)、会場や会期といった、既存の展覧会の枠組に対する意欲的なアプローチが伺える内容となっていた。

*1 オンライン・マガジン「ART iT」における連載記事「田中功起 質問する 8-1:西川美穂子さんへ1」より引用
*2 例えば、映画館でスクリーニング上映された作品は、インターネット上でも公開されており、JR山手線で行われたトークイベントの記録はここからダウンロードが可能だ。

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