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MOTアニュアル 2012「風が吹けば桶屋が儲かる」

HAPPENINGText: Miki Matsumoto

会場に入り、実質的な意味で鑑賞者を最初に迎えるのは、森田浩彰の作品だ。展示室の白壁に取り付けられた木製の棚には、40点の紙の山が並ぶ。

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森田浩彰《人が集まる場所で、みんなで、行う、何か》

それぞれの紙には「毎日1個、ゴミ箱の中に森田浩彰の作品が入れられます。ゴミ箱を開けて作品を持っていって構いません」「携帯電話の充電ができる場所がある」「あなたは誰かに、駅の行き方を尋ねられるかもしれない」といったテキストが記されており、裏には美術館内の簡易マップと具体的な位置を示す印がついている。

鑑賞者自身の想像と行動を喚起する、インストラクション(指示書)のようなこの作品は、観客は作品と無関係な傍観者ではなく、展覧会という一つの出来事の中に組み込まれている一参加者なのだという感覚を呼び覚ますかのようだ。

次の展示室には、写真をベースに活動する下道基行の作品が並ぶ。今回は2006年から継続している「torii」シリーズに、新バージョンを加えた構成だ。

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下道基行 《torii》 2006-2012年 展示風景

同シリーズは、サイパン島や台湾といった、第二次大戦中に日本の占領下にあった地に残る鳥居を撮影したもの。異国の地で長い時の流れに晒された鳥居は、元々有していた象徴的な意味合いを失い、様々な形で風景に溶け込んでいる。倒されてベンチとして利用される鳥居や、十字架が並ぶキリスト教の墓地に佇む鳥居に交じって、一枚、鳥居の姿が見当たらない写真がある。戦後に殆どの鳥居が破壊された韓国で撮影したというその一枚も含め、あるがままの現在を捉える写真群からは、それぞれの土地の人々がどのように歴史と向き合っているのかを真摯に見つめる透明な眼差しが感じられた。

なお、展示室の一角にはコピー機が設置されており、観客がボタンを押すと、裏面には下道氏が執筆した撮影日記、表面には撮影旅行中の列車の切符や時刻表など(原稿台のガラス面に設置されたこれらのアイテムは、会期中に何度か下道氏が内容を入れ替える)が印刷された、特製ハンドアウトが出てくる仕掛けになっている。

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