松山智一
PEOPLEText: Yuji Shinfuku
変容するグローバルな世界の国境を越えた自己。日本の伝統絵画を世襲しつつも、ストリートアートと現代美術を行き来し観る者を魅了する。
インタビューで松山智一氏のスタジオを訪ねた際に聞いた面白いエピソードを紹介したい。
ニューヨークには現在、数多くの日本食レストランが存在するが、松山氏の家の近所にも例に洩れず日本食を出すレストランがあるという。日本といえば、サムライ、芸者… という使い古されたいかにも “ASIA”なイメージを今でもどれだけのアメリカ人が抱いているのか正確な数は定かではないが、こちらに住む日本人の目から見ると 2013年現在においてもその数はいまだ多い様に思われる。そのレストランにはそんなアメリカ人のイメージにぴったり来る様な名前、「KYOTO」という店名がついているそうだ。ニューヨークのブルックリンでなぜ京都… その脈略の無さに日本人なら驚いてしまうところだが、そんな事とは我関せずアメリカ人が平然と寿司をつまむリアルな日常がここにはある。日常にふと現れる異文化のミクスチャー、国境を越えた際に自然発生した間違った解釈。きわめつけにその日本食レストランは日本人経営の店ではなく、雇われ中国人が経営しているというのだ!
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“The Future Is Always Bright , Study 1”, Tomokazu Matsuyama, 2010, Acrylic on canvas, 36 x 48 x 3 inch
ニューヨーク、ブルックリンのグリーンポイント地区にアーティスト松山智一氏のスタジオはある。多くの現代アーティストのアトリエが集まっている地域で、KAWS(カウズ)や村上隆などもこの地域にスタジオを構えている。小学校の時期に家族で渡米し、中学生になる帰国するまで滞在したアメリカでスケートボード、ストリートカルチャーの洗礼を受けたという。
日本ではグラフィックデザイナーとして活躍され、雑誌リラックスで作品を発表されていたそうだが、もっと自分の好きな様に作品を制作したい、もっとクリエイティブに生きたいという思いから渡米しアーティストに転身。その後はグループ展、個展を重ね、日本、アメリカを中心に、香港、ドバイなど世界中で作品を発表している。その生い立ちに反映される洋の東西が入り交じった独特な世界観と、ポップで色鮮やかな作風で見るものを魅了する。
“Bon Voyage”, Tomokazu Matsuyama, 2012, 22K genuine gold leaf, polyurethane auto paint on solid polyurathane ren shape, 48 x 24 x 24 inch
松山氏の作品には日本絵画の伝統的な技法やイメージを用いていたり、フィギュア、空間の余白の取り方等、日本美術の影響を感じさせる所が多い。しかし日本の伝統的な絵画の要素を用いるにしてもそのままなぞるのではもちろんなく、ある種ネタ使いし自分のスタイルに取り込み、結果的にそのような日本の伝統絵画をアップデートしているような所がある様に思う。
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