「十勝の美術クロニクル」展
HAPPENINGText: Toshiaki Hozumi
北海道・十勝地域の美術の歴史を年代ごとに見せる展覧会「十勝の美術クロニクル」が、7月から道立帯広美術館で開催されている。十勝地域は道内でも近年、アート活動が目覚ましい地域のひとつ。本展は、その十勝における開拓期の美術の受容から、本格的に現代アートが胎動する80年代初頭までを、充実した作品群でひととおり概観できるような展覧会となっている。
意外なことに、十勝の歴史を俯瞰する展覧会は、道立帯広美術館では初めての開催だという。通常、地域の美術館は「地域の美術」の研究と収集、紹介が重要なミッションのひとつであり、地域美術の歴史を紹介する展覧会は、所蔵品の紹介を中心にしながら、定期的にひらかれるべきものであるといえるだろう。それが開館20周年まで待たざるを得なかったというのは遅きに失したと言いたいくらいの開催である。おそらくは、研究の成熟を待っていたというよりも、もう少し現実的な課題があったのだと推察される。
いずれにせよ、そうした課題を乗り越えて開催された今回の展覧会には、様々な新しい発見がある。たとえば、昭和になって「平原社」が誕生してからが十勝の美術かと思い込んでいたら、その前史が存在する。豆やでんぷんの生産で富を蓄えた農商たちによる愛好会がひらかれ、それが本州の書画や油絵を本格的に移入させる契機になっている。全道的に知られる能勢真美の帯広移転が作品的にも人的にも予想以上の影響を与えていたりもする。また六花亭の包装紙などで知られる坂本直行が、草花だけではなく、達者な風景画を描いている。昭和30年代は寺島春雄を中心としての交友関係が、十勝の美術を大きく成長させて、神田日勝などの誕生に道を開いていることもみえる。
全体に明るい色遣いが多いのは、十勝の風土性だろうか。旭川、札幌などの北海道の美術はどちらかというと北方的な禁欲的な色遣いのものが多いのだが、ひろびろとして草原が多い十勝地域から生まれ出る絵画には、のびやかな色合いが目立っている。そういえば、十勝出身の矢柳剛も、後半期の神田日勝も原色に近い明るい色彩づかいをしていることを思い出させる。
こうした地域の美術を紹介する展覧会が陥りがちな罠は、単なる「郷土史の美術バージョン」になってしまうことが多い点である。史料的な価値を強めると、どうしても郷土史臭から抜け出せずに、美術としての眼の至福に欠けるきらいがある。美術展である以上、美術の「郷土史」ではなく郷土の「美術史」であってほしい。その点もこの展覧会では配慮されていたように思う。単にこの時代のこの画家の作品、ということではなく、質の高い作品をもってくることに気配りがなされている。史料的価値ばかりではなく、現在の目から見ての作品の質の高さこそが、実は美術史に説得力を与えるのはないだろうか。
この展覧会は、帯広の現代美術を開花させたといわれる佐野まさのとその周辺の活動で締めくくられている。この佐野まさの以後の美術活動については、前掲記事「帯広コンテンポラリーアート2011―真正閣の100日―」として開催されているアートフェスティバルに見ることができる。いわば、この時期は、佐野まさのという作家を回転軸として、十勝のアートを包括的に楽しめる絶好の機会となっているのだ。会期は残り少ないが、ぜひ帯広まで足を運んでみてはどうだろう。
道立帯広美術館開館20周年記念展「十勝の美術クロニクル」
会期:2011年7月1日(金)~9月7日(水)(毎週月曜休館)
時間:9:30〜17:00(入場は16:30まで)
会場:北海道立帯広美術館
住所:帯広市緑ヶ丘2番地 緑ヶ丘公園
入場料:一般800円、高大生500円、小中生250円
TEL:0155-22-6963
https://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp
Text: Toshiaki Hozumi
Photos: Toshiaki Hozumi