長沼里奈

PEOPLEText: Shinichi Ishikawa

最新作「まぶしい嘘」の制作について教えてください。

主演は飯塚俊太郎さん、そして一作品目から私の映画に出演してくれている成田愛裕美さんにお願いしました。飯塚さんとの出会いは夕張映画祭の会場でした。当時まだ高校生だった私たちの話を真剣に聞いてくださり、その年に撮影した「女子高戦記」(2000年)に出演していただきました。相手が高校生だろうと本当に札幌までポンといらっしゃるそのフットワークの軽さに脱帽し、そして「いつかお互い成長しあってまた一緒に映画を作ろう、その時は僕が主役の脚本を書いてくれ」と約束しました。私はまだまだ未熟ではあるのですが、「その時」が今なのではないかと感じ、出演依頼をしたところ快く引き受けていただきました。普段はワハハ本舗の冷蔵庫マンとして会場を冷やしっぱなしの飯塚さんですが今回は大人で格好良い私たちの大好きな俳優・飯塚俊太郎を撮りたいと思いました。制作は2005年よりスタートして、一ヶ月にわたって札幌・小樽などでロケ を行ない、色をなくした孤独な画家と、失明を迎える女性とのラブ・ストーリーを撮りました。

長沼里奈「まぶしい嘘」
映画「まぶしい嘘」より

なぜ今回はラブストーリーなのでしょう?

たっぷりと時間をかけて新しい映画について考えていました。そんな中で上映会ごとにお客さんに書いていただいている過去のアンケートを読み返しました。もちろん映画ですので賛否両論ですがいずれにしても感想のほとんどは「映像がきれい」などの表面的な「感覚」のものばかりでした。やはり私の作品はどれも台詞やストーリーが無くある意味では難解なものが多かったのかもしれません。その分視覚的な映像表現における印象が強く、もちろんそれが持ち味と評価してくださる方も沢山いらっしゃいますが、あくまで自分は「感情」を撮っていたにもかかわらずそれが伝わっていないことがわかりました。

あらためて「感情」を描きたいと思いました。今まで私は衝動的な感情で撮っていましたが今回は映画の登場人物から生まれる感情をおさめていきたい。そしてそれを観た方たちの感情がどう動くのか知りたい。そう思いました。これってすごく当たり前のことなのかもしれませんが今まで私は映画制作において誰かの何かのために、と作ったことがなくてこれは大きな変化だと思っています。なので題材はラブストーリーを選びました。私もそうであるように恋は誰でも経験があります。入り口をできるだけシンプルにしてそして自分の世界へ連れて行きたい、八作品目にして初めて台詞とストーリーのある脚本を書きました。

長沼里奈「まぶしい嘘」
映画「まぶしい嘘」より

最後に、今後の予定を教えてください。

「まぶしい嘘」は5年ぶりの新作です。映画作りにおけるコミュニケーション、もちろん映画の中で伝えたいこと、自分の中にある感情や感性、そういったこれまで考えていたことの答えがもしかしたらこの映画を撮ることで見つかるのではないかという実験でもありました。そういう意味でまだまだ私にとって映画を撮るということはパーソナルなものなのかも知れません。

「まぶしい嘘」を上映し観ていただいた皆さんのアンケートを読みました。内容があきらかに変わっていました。こうしてまたひとつ私は救われています。やっと、初めて「映画を撮れた」とさえ思っています。まだまだ多くの答えが隠されているとは思いますがこの映画をスクリーンで上映し、足を運んでくださる方たち、待ってくれているファンの皆さんに観ていただくことも映画制作と同じくらい大切なこととして続けていきたいと思っています。何よりも私の作品を観てくれた方の感情が目の前で動いているのを目の当たりにするのはとても刺激的です。

「まぶしい嘘」は、前作「丹青な庭」のアパートで自由を奪われている女性を見に来る男性という非日常な内容に比べると、ひどくスタンダートな作品に思える。しかし、編集のキメこまかさによるシーンのこだわりは前作以上のものを感じるし、2人の電話での会話や、画家が色を思い出すシーンなど印象深い映像もある。ラストの静粛さはとても美しい。次の上映を見逃さないようにサイトをチェックして欲しい。

まぶしい嘘
出演:飯塚俊太郎、成田愛裕美、他
監督/脚本:長沼里奈
2007年公開映画・66分
https://www.eizoko.com

Text: Shinichi Ishikawa

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