フェイル

PEOPLEText: Naoko Fukushi

世界のどこかの国のストリートで彼等の作品をいつのまにか目にしている人も少なくはないと思う。ストリートアートに留まらず幅広い分野でニューヨークを拠点に活動するアート集団・フェイルが、今月のカバーデザインを手掛けてくれた。生まれた国がばらばらで、男性2人に女性一人というメンバー構成の3人は出会うべくして会った。彼らを知るうえで “コラボレーション” はまず外せないキーワードだろう。フェイルの過去、現在、そしてこれからをじっくり伺った。


POW exhibition at Diesel denim gallery, New York, 2004

まずはじめに、自己紹介をお願いします。

ミラー:メンバーは、パトリック・マクネイル(カナダ)、ナカガワ・アイコ(日本)、パトリック・ミラー(アメリカ)の3人です。

3人はどのようにして出会ったのですか?

マクネイル:僕とミラーはアリゾナの高校からのつき合いで、お互いに出会ってから、いつもスケッチブックを交換したり、コラボレーションしたり、何かプロジェクトを始めることについて語ったりなどしていました。一緒にスタジオを始めたいというようなこともいつも話していて、それが今実現しているのがすごい。2人がミネアポリスとニューヨークのアートスクールに通っていた頃、マクネイルが当時グラッド・スクールで学んでいたアイコにニューヨークのクラブで出会った。彼女はそのクラブでモーショングラフィックをやっていて、マクネイルはそこでペインティングを展示していた。クラブだけの仕事に限界を感じていたアイコは、マクネイルに出会ってストリートアートという新しい世界に足を踏み入れる。彼女はアーティストのコミュニティと当時の作品のクオリティを気に入り、新たな情熱が湧き出てくるのを感じました。

こうして3人が出会い、大判のスクリーンプリントにしたイラストレーションを軸にしたアイディアが、2002年の初め頃に次第にまとまっていった。僕達は常にビジュアルアーティストとして、バンドに似たような、“アートグループ”という概念に興味がありました。全員の努力がつながり、ある結果が生まれるというプロセスで作品ができあがる。そのプロセスでお互いを刺激しあうことができる。僕とパトリックはそういう風に成長してきたし、そういう考え方が固まって来た頃にアイコが現れて、全てがつながったような気がしました。


Berlin, 2004

ストリートを表現場所にしたのは、活動当初からですか?なぜストリートを選んだのでしょうか?

アイコ:ストリートアートとの出会いは、フェイルをはじめる大きなきっかけの一つでした。当時仲間と入り浸っていたナイトクラブの位置するミートパッキング・ディストリクトには、オベイ、バスト、WKインタラクトといったアーティストのステンシルやポスターがストリートに多くあって、エリアそのものがストリートアートのギャラリーみたいになっていたの。クラブからの帰り道、パトリックと一緒に歩きながら一つ一つの作品がもっと詳しく分かるようになると、もちろん私もやってみたいっていう気持ちになった。有名無名問わず、毎日誰かが何かを貼ったりペイントしたりするからどんどん変化する街を歩くだけでもとても楽しかったのを覚えている。アートを表現する場所はギャラリーだけじゃない、生きたアートが毎日生まれるのがストリート。それでパトリック達が大きなシルクスクリーンのポスターを学校で製作していて、女の子のヌードのポスターを100枚近く、マンハッタンのダウンタウンに貼ったのが私達の最初のストリートアートでした。面白いのはいつものスポットに他のアーティストがタグを書き足したり、ポスターやステッカーがどんどん重なっていくから、そこで見えないアーティスト同士のコミュニケーションが言葉でない特殊な言語で行われていて、偶然だけど必然のようにストリートの表現者たちが繋がって、自然と仲間ができて一緒に夜中繰り出すようになったり。例えば、バストは今では兄弟みたいに一緒にボミングに行くけど、初めは何処の誰かも知らなかった。

マクネイル:オベイで思い出したけど、そもそも最初は街中にペーストして名前をできる限り広げて自分達の跡を残すのが目的だった。ストリートで起こっていることを純粋に楽しんでもいたし、そこに参加したかったというのもあります。しかし僕達の考え方はそれを始めた頃とはちょっと変わってきています。公共の場の目に触れることは少なくなっていると思います。昔ほど数には執着していないし、ここ1年ペーストはしていません。いくつか良い場所を見つけて、そこで本当に良いものをやりたいと思っています。最近ストリートでの作品は全て、ブラシを使ってペイントしたものかステンシルです。その方が、よりパーソナルでアーティスティックですよね。ペイントには、ポスターにはない永続性があります。ポスターを貼付けていると時々、広告を貼付けているような気分になって、以前はそこから得ていた楽しさやエネルギーを感じなくなりました。ストリートでの活動は好きですが、そこで名前を広げるというより、もっと個人的なものです。ストリートで起こるばかげたもめ事は大嫌いですが、そこで活動し、そこで起こる変化を楽しんでいます。

アイコ:それから4年間、ニューヨークだけでなくロンドン、パリ、アムステルダム、ベルリン、バルセロナ、東京、多くの街を訪ねてペーストやペイントを続けているけれど、状況はマクネイルもいうように前と少し変わってきているのは確か。数量的な意味より質や気持ちが大事なんだと思う。今でも訪れた先のアーティストと夜中繰り出してペイントするのは楽しい。先月もバルセロナで、地元の人達と夜な夜な歩いてステンシルしたのはとても楽しかった。向こうは英語が話せない、こっちはスペイン語が話せない、なのにみんなとてもエキサイティングしてた。

マクネイル:でも、フェイルのルーツはデザインなので、ストリートだけではなく、ファッションも含めデザインに関わるプロジェクトには興味があります。例えばファッションなら、僕達はそれを“服のうえでのストリートアート”とは考えません。ストリートアートはストリートアート。よくストリートで使っている絵柄をファッションでも使っているけれど、ファッションのプロジェクトを手掛ける時はほとんどそのプロジェクトのためにデザインしています。ストリートのものとは全く別のものです。

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