ソナー 2003

HAPPENINGText: Ben Vine

アンダーワールドのライブが行われた会場は、昨日ほど混雑はしていなかったが、彼らを待ちわびる人でいっぱいだった。ヒット曲を披露してくれたアンダーワールドだが、こちらとしてはスローテンポの曲を聴きたかった気分。しかし、ペース的には特に問題はなかったのだが、アンダーワールドからはどこか想像力に欠けている印象を受けた。


Underworld © Advanced Music

全体的にやや単調であったし、ヒット曲以外は、何だかしゃきっとせず、似たようなものをリピートしているようだった。楽しかったし踊ることもできたが、オービタルのようなライブからはかなり懸け離れていたものだった。僕が聴きたかったのは、いろいろなコンプレックスチューンであり、アンダーワールドからは、質の良いドラム音と力強いバス音を期待していたのである。


Jeff Mills © Advanced Music

ジャイルス・ピーターソンも見てみたいと思っていたのだが、残念ながらアンダーワールドのライブが終わった時には、もう終わってしまっていた。ジェフ・ミルズのパフォーマンスまで、僕はビールを飲んだりしながら時間を潰していたのだが、その時に、僕が最初の職場に就職する前から、彼とはダンス仲間だったことを思い出していた。

これはかなり昔の話だが、彼はその時から比べても、全然変わっていない。その時から彼は、テクノ好きで、はちゃめちゃだった。今でもジェフは、僕達をテクノの深い所まで連れて行ってくれるし、ちょっと盛り上げてくれるような曲を提供してくれることも忘れない人物だ。そうこうしている内に、レディトロンの出演時間が迫ってきた。友人達と、やっぱりジェフは、いいねと確認し合いながら、僕達はその場を後にした。

ニュー・オーダーに関しては、僕はほとんど無知だったのだが、参考資料に書かれている以上に、彼らは素晴らしいパフォーマ−を行ってくれた。レディトロンが盛りだくさんのステージを披露してくれたのに対して、彼らのはおとなしめのパフォーマンス。でもそういったプラスとマイナスがあることで気分転換をすることもできた。


Ladytron © Advanced Music

ユーモアたっぷりのステージを披露してくれたのは、DJヘル。あっと言わせるようなエレクトロを聴かせるとライブ前に公言していたDJヘルだが、実際耳に届いたのは何だかエレクトロとはちょっと違う音。あれは、イギー・ポップ・アンド・ストゥージズの曲だったのであろうか?そのストゥージズの「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」を上手くエレクトロっぽく編曲し、その曲を聴いていると、まるではじめからその曲はエレクトロ風に作られたような錯角に陥いってしまう。会場が熱気に包まれたところで次に彼が流したのは、心地よくも乱暴なギターのサウンド。ソナー・パーク全体が、ギターの音で包まれたようだった。

このライブが行われていた時は、なんともう朝の4時や5時といった時刻。僕達のテンションもDJヘルのお陰で最高潮だ。そして遂に、ローラン・ガルニエがファイナルを飾る時間でもある。昨日、素晴らしいジャズのステージを行ってくれたブッゲ・ヴェッセルトフトも助っ人として登場。魔法のようなトランペットの音色を届けてくれた。それを聴いていた時に、僕はなぜか、子供時代にドナ・サマーの「アイ・フィール・ラブ」を良く好んで聴いていたことを思い出した。その30年後の現在の僕もまだこの曲が好きだと両親に言っても、きっと信じてくれないだろう。ガルニエは昔の曲を中心に流していたのだが、それらは本当に昔のものが多かったので、人によっては小学校時代ぐらいに戻った気分になった人もいるのではないのだろうか。またガルニエは、セクスプレスやKDFの3AMエターナルの生楽器バージョンも披露。生の楽器音を聴いたのは、このステージが初めてだったことに気付き、僕は改めてその事実に驚いた。


Laurent Garnier and Bugge Wesseltoft © Advanced Music

DJヘルの時にはロックギター。そしてガルニエの時は沢山の楽器。次は何が来るのだろうか?と期待が嫌がおうにも高まる。ふと会場の上に目線をやると、空が白んできてることに気付いた。一晩中踊り続けているのに、どの観客の顔にも笑顔が浮かんでいる。疲れている人など、誰もいないようなのである。会場を後にした僕達は、思わずくすくすと笑い出した。と言うのも、ガルニエの今回選曲した昔の曲の数々は、僕達が十代のころに必死になって集めていたレコードコレクションそのものだったからだ。一人の女の子がサタデー・ナイト・フィーバーの調子で僕らを踊りに誘ったが、3回くるっと回転しただけでもう僕はフラフラで、みんなの笑いを誘うという状態だった。雲の後ろから徐々に光の強さを増す太陽が上がってくる中、そんなばかなことをしている僕らは、この素晴らしい週末を最悪の姿で終わらそうとしていたが、ソナーは来年もやってくる。今年のお祭りは終わり、そして僕達に残ったのは何だかもの悲しい、寂しい気持ちだけだ。霧吹きのような雨を降らす空を、まるで「もっと遊びたい」と懇願するように仰いだ。


Sonar Night

僕はビーチにある超巨大の日傘の下で寝そべっていたのだが、ちょっとおそまつながらも膨らませて形を作る枕をイベントスポンサーが作ってくれたことに感謝していた。今年のソナーは、あえてビックネームばかりではなく、あまり知名度がないレーベルやアーティストの紹介に力を注いだ。また、ドラムやバスをふんだんに使用するジャズテイストをフィーチャ−したのも特徴だ。ニンジャ・チューンが登場しなかったのは個人的に残念だが、それでもソナー自体が着実に発展し続けていることを感じることができた。おそらく、前夜祭をロンドンで行うなど、新しい試みを行ったことが大きいのではないだろうか。もしかしたらそれが、ソナーに参加する全ての人の気持ちをひとつにする唯一の方法だったのかもしれないし、僕自身が、ソナーのこの膨らみ続ける期待への対処法を知らなかっただけなのかもしれない。とにかく今の僕の気持ちは、かぶっている帽子を脱いで、ソナーに敬意を示したい、それだけだ。そんなことを考えながら、そしてサンダルに入った砂の感触を確かめながら、寄せては引いていく波と潮風を楽しんでいた。

SONAR 2003
会期:2003年6月12日(木)〜14日(土)
会場:MACBA, CCCB
press@sonar.es
https://www.sonar.es

Text: Ben Vine
Translation: Sachiko Kurashina

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE