ピーター・ドイグ展
HAPPENINGText: Matt Smith
フランチェスコ・ボナミ(シカゴ現代美術館の現シニア・キュレーター)が、ビジュアルダイエットにとって、絵画は健康的な栄養成分であると表現したのは、十数年前の事。画家であろうと、あるいはアーティストやデザイナーであろうと、絵画は創造的な芸術における永続的な斬新さに対する更新と伝統の優位性を示している。(ボナーミのエッセイ「ビタミンP:ザ・サウンド・オブ・ペインティング」、フラッシュ・アート・マガジン 173号より)
Girl in White with Trees, 2001-2002 © Peter Doig
最近の絵画に関する多くの議論は主に、機械的な複製が可能な写真との対比が中心的な話題になっている。写真が、一点物のアート作品よりも高く評価された場合、アートの世界に蔓延する厄介なエリート主義の権威が弱まってしまうのではないかと、しばしば考えられてきた。しかし、絵画はポピュリストのイディオムを伝統的な形で具現化する可能性において、驚くべき回復力を示している。
象徴的な可能性として広く知られているのは、村上隆の絵画作品の数々である「スーパー・フラット」ではないだろうか。これらの作品では、18世紀の日本のマンネリズムと、現代のアニメや漫画文化の間にあるスタイリスティックなコネクションが表現されている。(村上隆著「スーパーフラット」広告批評出版を参照)
現在、アーツ・クラブ・オブ・シカゴで公開されている、スコットランド出身のピーター・ドイグの作品は、意図するところを見事に、そして効果的に転回させているものばかりだ。村上氏の技術は、現代的なコンテンツを注入することで古いフォームに再び命を与えているのに対して、伝統的な題材を扱ったドイグ氏の作品(ほぼ全ての風景)には、様々なスタイルを通じて新しい命が与えられている。そしてまた定期的にスタイルに変化を与えること、そしてその技術が、20年後でも想像できるものであるものだからこそ、アーティストは、伝統や注目を集める文化を適度に自分の作品に取り入れ、独自の作品を作り出しているのだ。
Gasthof zur Muldentalsperre, 2000-2002 © Peter Doig
今回展示されている27点の作品を紹介すると、ドイグと同じく90年代に登場したショーン・ランダースやリチャード・ビリンガムの芸術で見られるような、ニュアンス無しに落ちぶれた状態を言っているように聞こえるかもしれない。例えば《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》(2000〜2002年)という大きな作品では、演劇で使われるような口ひげをつけた二人の人が描かれているのだが、この二人はその他の題名がない2作品でも登場している(両作品とも2002年のもの)。この二人は、道化師のようなコスチュームに身を包んでおり、カラフルな壁を背景に佇んでいる。そして木は、さらっとソフトなタッチで描かれており、モダニストの伝統における、長い歴史やきわめて抽象的な風景画において、通り過ぎた多くの物事は、悲しい冗談よりもつまらないものである、ということを無意識に示唆しているのだ。この皮肉的なセンスは、素晴らしく情緒的な平凡を呼び出しており、ドイグの作品を通じて主張されている。覆いかぶさるような感覚は、ペイントされた表面にだけに現れ、そこから私達はビタミンを摂取する。そして今こそ、私達はちょっと休憩を取り、自分だけの時間を楽しみリラックスする時なのだ。
Green Trees, 1998 © Peter Doig
今回紹介したアイディアはどれも、新しいものではない。しかしドイグは、この種の「90年代のポストモダン的な、やや落ちぶれた状態でありながらも、新たな進歩」を擁護してくれるような、群集の中から秀でた存在になる為に登場したと言ってもいい。彼の大きな作品は、見る人の目を本当に楽しませてくれる作品。その鮮やかな色、そして不鮮明で半分しか覚えていない夢のような絵が、見る者を引き付けるのだ。ドイグは通常、キャンバスを横断するような、斑点を作るような水気の多い色を垂れ流したりする。そのような、カビのはえたかのような見た目だからこそ、私達が今見ているものは、主観性、思い出、そして形式的な仲裁というレンズを通して混乱を起こし、歪められる。これはスマートで、良い絵画とされるものだ。そして、このメディアのアプローチや認識を考慮しているものとも言える。しかしその目的のために、単に偽ったわけでは決してないのである。
Peter Doig Exhibition
会期:2003年1月27日(月)〜4月12日(土)
会場:The Arts Club of Chicago
住所:201 East Ontario Street, Chicago, IL 60611
TEL:+1 312 787 3997
https://www.artsclubchicago.org
Text: Matt Smith
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Courtesy of the Arts Club of Chicago © Peter Doig