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第3回 ブエノスアイレス・ファッション・ウィーク

HAPPENINGText: Gisella Lifchitz

このようなイメージの羅列は「留まるべきか、進むべきか?」という現在のアルゼンチンのデザイナーの分裂を反映している。それぞれ彼は、現在の居場所を去らずに前進することはできないかと模索しており、必然的に新境地を開拓するような多様な賞を用意したり宣伝活動をして国際展開する道が選ばれた。

エステベコレナ・ブラザーズはすでにアメリカのショップで売り出している。ローレンシオ・アドットはマイアミに事務所を準備中。さらにヨーロッパ、中近東、カナダからの申し出にも前向きに検討している。パブロ・ラミーレは2003年の春夏コレクションを輸出したがっている。それぞれが自分達の無限の創造性に基づいて留まる可能性が開けるのを心待ちにしている。

ショーでは多くの疑問が浮かび上がった。例えばナディーン スロトゴーラのファッションショーでは舞台が狂人病院か孤児院のようで、みんなが逃げ道を探していた。パブロ・ラミーレの作品の最後には白いドレスを来た女性が登場するが、彼女は花嫁ではなく彼が切望していた失われた共和国という設定だ。


Laurencio Adot

『BAFは多くの事が可能であると証明した。まったく奇跡のようだ。』とデザイナーの立場でラミーレは語る。彼は1994年にアルパガータ・コンテストで最優秀賞を受賞してプロデビューした。その後デザインを勉強するためにパリに移住。彼のファッションへの情熱は幼稚園の時にすでに発揮されている。描く人全てに帽子をかぶせていたのだ。

『今回のショーでは偉大な共和国というものを表現したかった。アルゼンチンらしさを復活させたかったんだ。モデルたちは我が国のヒーローに扮して、国旗の色をしたダイアモンドを額に飾った。国のシンボルを宝石にしたかったんだ。我々の宝を思い出して欲しかった。このアイディアは前から自分の中に存在していたけれど、ずっと気付かなかった。たった一ヵ月で今回のコレクションをつくったんだよ。』


Pablo Ramirez

スペイン移民のローレンシオ・アドットはノスタルジックな内省を通して状況を考える道を選んだ。その結果「愛されるブエノス・アイレス」というコレクションができあがる。世界的に活躍するこのデザイナーは「ロマンチシズムで自己の平静を模索する女性」からインスピレーションを得たと言う。アルゼンチンの黄金の「ベル・エポック」時代をメランコリックに解釈した。彼のコレクションが示すのは「自分の性を怖れない洗練された女性の素晴らしいストーリ-」だ。

アドットは革と黒に重点を置き、光で遊びをつくってユーモアを出したと語った。彼は圧倒的な情熱というものが大好きだと言う。『このコレクションは力強い仕立て方をしている。つややかで光沢のあるファブリックを用いたブラウスやカクテルスタイルを復活させた。スパニッシュスタイルの丈の長いロマンティックなスカートなんかをね。今シーズンは革服がメイン。オートクチュールとプレタポルテ、子どもっぽいレースと自分自身の過去の思い出とをミックスさせたのさ。』

アドットはセレブとエンターティナーという特殊なターゲットに焦点を当てているが、今シーズンはもっと軽いスタイルに方向転換することにした。「まともに取り合ってもらえるほど有名にならなければならないと教わってきたけど、それは真実じゃない。自分自身でいることが大切なんだ。」アドットにとってBAFのもっとも重要な点はそのエネルギーだ。『現在のファッションショーが太った女性のためにあるのでないという事を人々はとうとう理解したね。これでやっと国際的になった。』

イベントが開催されるようになって、ある種の楽観的な考えが発生するようになった。「沢山の企業がみんなの間に入っているんだ。」とアドットは言う。『僕達は新しいストーリーをつくり出そうとしている。しなければならない事はまだ沢山あるけれど正しい方向に進んでいるんだ。』

ラミーレの新しいコンセプトにも同じような考えが見て取れた。『愛国的なヒーローやリーダーたちの夢を子どものように僕はもう一度みている。』と彼は語る。『僕らは行動を起こす事で革命をおこしている。ここに留まって信念をもたなければならない。』このイベントについてエステベコレナは『素晴らしいチャンスだ。最高であるとともに最低の時でもある。というのは経済状況があまりにも悪い一方で技術の高さや 人間の可能性は莫大だから。お互いに協力すれば大きな事を成し遂げられる。』と言っている。

共通の進むべき道を探しだし、情熱と希望を持って各々が知っている事をする必要があるという点でみなの意見は一致している。昨今のファッションデザインは創造力を働かせ芸術的な作品を送り出す場所だ。『我々のもとに初めてやってくる人々は驚くんですよ。アルゼンチンについて特にブエノス・アイレスについて語る事が山ほどあるんですから。』と大きな笑みを浮かべてザビエルは言った。

小規模なところでは多くのデザイナーがブエノス・アイレスを作品展会場に選ぶ。全ての人間が大規模なイベントだけに注目しているのではなく、控えめなものも探している。このような動きのいくつかはノマド・ブティック(商品をかかえて場所を移動するデザイナー集団)や、ブエン・ディア・フェスティバル(ミュージシャンやファッション・デザイナーを結び付けたオープンエアの複合空間)やイースト・ウェスト・スペース(学生を含め新しいデザイナーを紹介。)などがそれぞれ活動した成果だ。

大学教授でイースト・ウェスト・アート&デザインの創設者でもあるグスタボ・レントはこう説明した。『これらのあまり有名ではないイベントの目的は、グループの一員になり、自分達をデザイナーに押し上げる共通の力を開発する強さを身につけることにある。』

第3回ブエノスアイレス・ファッション・ウィーク
会期:2002年4月22日(月)〜25日(木)
会場:Rural Society
住所:La Pampa 2895 Piso 30, Buenos Aires
TEL:+54 4784 3205
info@bafweek.com
https://www.bafweek.com

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Eriko Nakagawa
Photos: Gisella Lifchitz

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