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ジェレミー・デラー「アイ・ラブ・メランコリー」展

HAPPENINGText: Aya Muto

そして左手には、どこかで見たことのあるような音楽系統樹がプレキシー・グラスに大切そうに入れられてる。昔渋谷を歩いていて(どこで手に入れ、何のためだったかはすっかり忘れてしまったが)「渋谷系」という音楽のジャンルを説明するのにこんな系統樹が用いられていたのを思い出す。

音楽の派生とは、本当に神秘的なものだが、ここでまぜくり合わされてるのは、ブラスバンドとアシッド・ハウス。二つともまったくジャンルの違う音楽のように思えるが、デラ−が指摘するように共にイギリス労働階級の音。前者は、やや年配の世代向け、後者はもっぱら若者の「逸脱集会」に好まれる音達である。デラーの図によると確かにこの二つは交わるのである。デラー自身が参加した「ACID BRASS」というCD(1997)がそっと足元に置かれていた。

このロー・ギャラリーの特徴でもあるのだが、二つめのスペースは、建物の角だからか、妙な三角形をしている。いくつかこのスペースの使われ方を眼にしてきたが、今回ほど効果的なプレゼンテーションを見たことは無い。デラーの空間センスよあっぱれ。なんてことはない真っ白な蛍光灯に照らし出された冷たい部屋なのだが、突き当たりの壁が黒一色に塗られ、そのうえにレジン加工だろうか、「I ♥ Melancholy」というフレーズが光っている。半開きのドアの外から覗いたり、空間のど真ん中に立ってみたり中には、これでもかというくらいに黒壁に近づいて文字を研究する人まで、鑑賞のオプションは、無限大。

メランコリーの直訳は「憂鬱」ということになるのだろうが、このフレーズに、なんだかほんわかした暖かさを感じるのは、私だけだろうか。冷たい冷たい部屋に冷たい文字(しかも遊びのないフォントで)で書かれたこのフレーズは、もともとアニエスベーのTシャツデザインだとか。そしてスペースには「メランコリー」という哲学的エッセイがさり気なく置かれている。まるでこの無言の空間を補うかのように…。

ジェレミー・デラー「I LOVE MELANCHOLY」展
会期:2002年1月11日(金)〜2月22日(金)
会場:LOW GALLERY
住所:9052 Santa Monica Blvd., Los Angeles
TEL:+1 310 281 2691
low@lowlosangeles.com
https://www.lowlosangeles.com

Text: Aya Muto
Photos: Aya Muto

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