ハイス・ミュラー
PEOPLEText: Bastiaan Rijkers
ようやく私にとって初めてのアムステルダムレポートができた。私はジャーナリストでもないし、私を取り巻く世界を客観的に見ているようなタイプでもないので、私の記事はやや個人的で、かなり主観的になると思う。アート、デザイン、写真、人々、イベントなど、私の興味のある物を観て行く事になるだろう。ときどきは、何か面白い物を探して出かける事もある。今回のようにね。今月の記事の題材として見つけたのは、私とは7年来の仲(表面的なレベルでだけれど)で良く知っている、この男ハイス・ミューラー。
友達の紹介で知り合いになった彼は、私が何か彼の働くバーでオーダーするといつも飲み物をおごってくれる。お互いあまりよく知らないし、会うといつも2、3言葉を交わす程度で、得におごってくれる理由などないのに、彼が飲み物を勧めてくれた理由は、神のみぞ知るところだ。きっと彼は当時からすでに、潜在的に「ディスプレイ」していたのだろう。「新しい」友達や知り合いを作るために一生懸命働き、それが彼のゴールだとしたら、バーはこれ以上ないうってつけのスペースではないか。
その男とはオランダ人「アーティスト」、ハイス・ミューラー。ユア・ニューエスト・フレンド(最近できた友達)が、彼の最新プロジェクトの名前だ。しかし彼は、可能な限り全ての場所でいまもなお新しい友達を探している。このプロジェクトの進行中に、オランダのアートディレクターズ・クラブ「ADCN」は、毎年行われているオランダ広告フェスティバルの期間中に彼を有名にすることによって、プロモーションを行うことを決定した。ADCNは、テレビコマーシャルに至るまで、彼のプロモーションに使う素材のほとんどに出資して、ハイス・ミューラーを「最近の友達」として売り出した。フェスティバル当日、プレゼンテーターとしてハイスが登場して、なぜみんなが彼の「最近の友達」になるべきなのかスピーチした時、明らかになった。それじゃ、いったい彼のやってのけたことは何なのか?
彼が言うようにハイスは、アートなのだ。あるいは、ハイスはある程度のステージまで進んできた人生にではなく、アートの一部に属しているのだといい直すべきかもしれない。あるいは、私が彼になってしまったのか?いや、私は誰にも鳴りはしない。私は私であると言っている私なのだ。いやまてよ、私は私だとおもっている人なのだ。そうだ。それが私だ。私は人が私だとみなす物なのだ。そして、新しい挑戦がやってきたら、私は新しい別人なのだとその人たちに納得させるだろう。
混乱した?そうだろう。少なくともちょっとは。冒頭で、私が主観的な「通行人」に過ぎないと言った全てがこの事だ。私はハイスが彼のアートに見たものを言葉にしようとしているだけなのだ。ハイスは「ある日、学生に講議をしたのだけれど、話が終わった後記憶に残る質問は、『本当の事を話したのですか?それとも全部大嘘ですか?』というものだったという。そうか、混乱させてしまったんだな、と思ったけどもっともな質問だよね。僕は、君たちの最近の友達になりました。僕がそう言ったからという理由だけで、君たちの最近の友達なの。テレビやポスターや雑誌に載ったので、必要なメディアサポートも受けたよ。でも、結局僕は何なの?僕は、僕がそうなるように言った「最近の友達」。人がそう言ったからではなくて、僕が人々に僕をそうみなすように仕向けたから。」と言う。ハイスの言った事をまとめると、彼は世界でもっとも成功した、自分自身を作り上げた人物になることを望んでいるということだ。
したがって、彼の次なるプロジェクトでは、数カ月の内に彼が有名アスリートになるという方向を選んでも驚きはしないだろう。実際彼は、「オランダ・アスリート・オブ・ザ・イヤー」の獲得にも乗り出すだろうから。現在、彼はトレーニングを始め、ビッグで有名なアスリートになるための「勝利」の戦略をとっている事は間違いない。ハイスは今まで何のスポーツにも参加した事がないと白状したが、今のところ「ロッキー」のように厳しいトレーニングスケジュールも難無くこなしている。タバコを止め、酒も(ほとんど)断ち、トレーニングウェアとランニングシューズを新しく買った。また、縄跳びとサッカーボールにもきちんと取り組んでいる。外部から気を紛らわされる事なく、素晴しい努力を続け、容赦ないトレーニングに全ての時間を注ぐ彼に出資するスポンサーを得る事が、この先1、2ヶ月の彼の目標となるだろう。
これら全てを成し遂げるために、可能性のあるスポンサーに何本かの重要な電話をかけ、彼はアムステルダム郊外の新しい家に引っ越しをした。そこでは、アムステルダム中心部での暮らしを思わせるものに、邪魔される事はないだろう。彼のよく知っている世界とのつながりと言えば、コンピューターとなんといっても彼が大切にしている恋人のニッキだ。彼女は、熱心で挑戦的なこの新しいプロジェクトを彼のそばでいつも支えている。
私個人としては、ハイズをこれから数カ月間にわたってクローズアップし、最新のゴシップと、もちろん彼がプロ・スポーツの世界で手に入れた功績や勝利をみなさんにお届けしたいと思っている。次回は、このプロジェクトに対する彼の論理により深く迫りたい。「知力の強さ」対「精神の強さ」に関係する、あるいはそれに似たような興味深い理由があるに違いないと、私は踏んでいる。ここに、小さなムービーをみなさんのために用意した。ハイスの所で撮影された、アスリートとしての彼とその活動に関わるものを捉えた初めてのフィルムからのものだ。言っておくが、私は動画の世界に足を踏み入れたばかりで、ムービーに関しては全くのアマチュアだ。だから、素晴しい編集技術を私が身につけるまで、しばし御辛抱を。
Text: Bastiaan Rijkers
Translation: Naoko Ikeno
Photos: Bastiaan Rijkers